長年鳴らされ続けた警鐘もむなしく、日本や韓国で加速する人口減少が世界の注目を集めています。実は人口や婚姻率の減少はこちらに限った話ではなく、度合いは違えど、世界の大半の国や地域で少子化と結婚離れが確認されているそうです。
「いい人いないの?」「孫はまだか?」と黙って見ていられないのが親世代。婚姻の圧倒的過半数がお見合い婚であるインドでは、子供の伴侶探しのためにマッチングアプリを使う親も多いらしく、カーストや星座まで細かく設定した条件で子供の相手の候補を探すんだとか。日本にも親のための代理婚活サービス登録が増えていますが、子供の立場から個人的に想像すると背筋が凍るような気持ちです……。
パートナー探しの手段としてすっかり市民権を得たマッチングアプリですが、すでに「若者のマッチングアプリ離れ」が始まっているといわれています。アクティブユーザー数7500万人を誇る「Tinder」や、女性目線の設計で人気を集めた「Bumble」など有名なアプリでさえも、運営会社の株価が数年前に暴落し、依然として低迷しているようです。若いユーザー層の過半数が有料登録に踏み切らないのがネックになっていますが、その一方で月額料金が最大で2500ドルもするエリートマッチングアプリ「The League」が注目されるなど、恋活・婚活にかけるお金の二極化が興味深いです。
お金だけでなく、大人の恋愛は精神面でも負担がかかるものですが(経験者は語る)、無駄な時間やストレスなどのリスクを回避するために危険フラグを早めに察知したいというニーズに応えるサービスやコミュニティーに賛否の議論が巻き上がっています。ひとつの(ちょっと過激な)例として、草の根的に生まれた「Are We Dating The Same Guy?」は世界200以上の地域から3万人以上が参加するオンラインコミュニティーネットワーク。恋人候補の男性との真剣交際に迷った女性が、彼をよく知るほかの女性からの情報やアドバイスを求める地域限定のSNS非公開グループなのです。
運が良ければ、彼の元カノからDV歴やギャンブル癖など有益な情報をもらえるかもしれませんが、グループ内のやりとりから男性の浮気や不倫が発覚したり、グループの存在を知った男性が激昂して告訴や殺人事件に至ったショッキングな実例もあります。相手の本性を知らないのも知りすぎてしまうのもリスクになり得るということでしょうか……。
メンタルヘルスや心のケアに対する世間の理解が深まるにつれ、恋愛市場にもその影響が見られ始めています。あるアンケート調査によるとアメリカ人の90%以上が「カウンセリングを受けたことがある」交際相手を望み、健全な関係性を維持するためにカップルカウンセリングを受ける20代のカップルも増えているとのことです。
恋愛や結婚のリアルに関して悲観的な報道が多い昨今ですが、「家庭を持ってこそ一人前」という価値観に迎合しない人が堂々と生きられる世の中を期待しますし、誰かと人生をともに過ごしたいと願う人も幸せになってほしいと思うのです。
変容する恋愛観を知るキーワード
Throuple〈スラップル〉
ポリアモリー(複数恋愛)の3人で対等に形成される恋人関係。法律婚が認められている地域は少ないが、2017年にコロンビアで男性3人のスラップルの結婚が話題に。
Timeline decline〈「適齢期」お断り〉
○○歳までに結婚、出産、マイホーム購入……というライフステージに適齢期をつける風習を拒絶する女性の選択。20代で卵子凍結、60代でインフルエンサーに転身など、多様な生き様が広がっている。
Relationship Escalator〈関係性エスカレーター〉
恋人関係は婚姻関係に進展するべきものであり、レールに沿って進めば社会的ステータスも上昇する社会的通念を言語化した言葉。
Marriage proposal planning business〈プロポーズプロデュースビジネス〉
最高のプロポーズのためのスポット選びから動画撮影まで演出を全面サポートする。料金は高額なものだと10万ドル以上! ただしお相手の答えは保証されてません……。
文/キニマンス塚本ニキ
自由で多様だからこそ一筋縄じゃいかない
キニマンス塚本ニキ
東京都生まれ。9歳まで日本で過ごし、その後15年間ニュージーランドで生活。通訳、翻訳、エッセイ執筆のほか、ラジオパーソナリティーやコメンテーターとしてメディアで活躍する。
撮影/干川 修 ヘア&メイク/高部友見