一緒に暮らすことで性格が似るという証拠はない
遺伝うんぬんよりも、家族として一緒に暮らしていることで性格特性が似てくるのではないかとのもっともな指摘もある。
遺伝に加えて一緒に暮らすなどの外部要因によって両親から特性が受け継がれるという解釈は「家族内伝達(familial transmission)」として知られている。
家族には多かれ少なかれ“家風”があり、みそ汁やすき焼きの味付けなどから、毎年の恒例行事などを家族内で共有することで家族メンバーの性格特性も似てくるのではないかと考えるのは自然にも思えるだろう。
しかし今回の研究の主筆であるエディンバラ大学のレネ・モッタス博士によれば、家族として暮らすことに伴う経験が人々をより似通わせるという証拠はないと言及している。たとえば養子縁組の子供の性格特性が、養親や家族内のほかの子供たちと似通ってくるという証拠はないということだ。そして家族内伝達はいささか誇張されて過ぎているのだと指摘している。
我々の性格特性がどのようにして形成されるのか、どこから強い影響を受けるのかについて、そもそもまだよくわかってはいない。
幼少期に見たテレビ番組や映画などの映像コンテンツの影響もあるだろうし、字が読めるようになってからは各種の著作物からも強い影響を受けるだろう。思春期前後には“反抗期”もあり、むしろ親の影響を拒む時期があったりもする。
それなりに社会的影響力を持つ親と子の間での「世襲問題」や「後継者問題」、あるいは「2世問題」などは、親の資質が子に受け継がれているはずだという認識が当人たちや周囲にあることでむしろ問題を大きくしてしまっているのかもしれない。
親子が人格的に“ほとんど他人”という前提に立ってしまえば、これらの問題は実は問題にすらならないケースも少なくなさそうだ。そして世間的には幸運な子供の“親の七光り”の威光も弱まるのかもしれない。
家業の後継者がいないという“事業承継”も昨今問題になっているが、そもそも親子が“ほとんど他人”という視点に立つならば、解決策の選択肢はいろいろと増えてきそうだ。もちろん親子の仲は良いに越したことはないが、実はそれほど似てはおらず、むしろ“ほとんど他人”でもあるという視点を併せ持っていてもよいのだろう。
※研究論文
https://osf.io/preprints/psyarxiv/7ygp6
※参考記事
https://www.femalefirst.co.uk/bizarre/children-like-parents-1398438.html
文/仲田しんじ