ドイツでの指導者ライセンス取得の難しさを吐露する長谷部
気になるのは、彼らのセカンドキャリア。2人が共闘した2010年南アフリカ、2014年ブラジル、2018年ロシアという3度のワールドカップ(W杯)に出ている代表選手たちの引退後を見ると、中村憲剛や内田篤人のようにメディア露出やサッカー普及に携わりながら、JFAロールモデルコーチとして年代別代表強化に当たっている人材もいれば、今年引退したばかりの遠藤保仁のようにガンバ大阪トップチームコーチとして古巣に戻っている例もある。解説・タレント活動に軸を置いている中澤佑二や大久保嘉人、サラリーマンに転身した伊野波雅彦と道はさまざまだが、長谷部と岡崎は欧州で指導者ライセンス取得を目指していくという。
長谷部はすでにドイツB級ライセンスを取得しており、ここからA級、フースバルレラー(UEFAプロ)と最上位ライセンスまでステップアップできれば、日本人初の欧州5大リーグ指揮官の道も見えてくる。
とはいえ、日本人がドイツ語で座学から指導実践まで全てをこなすのは想像以上にハードルが高い。
「自分のドイツ語力がまだまだなんで、精神学や哲学の講義に出ると『何、言ってるんだ』と疑問に思うことはありますね(苦笑)。
指導実践でU-15(15歳以下)の選手を教えたりもしていますが、学校との意思疎通、親御さんとのコミュニケーションも必要ですし、選手個々の性格や人間性の部分にも踏み込まないといけない。それは長くサッカー選手をやってきた自分には経験がないことですし、それをドイツ語でやらなければいけないのでさらにハードルが上がります。
B級はプレーヤーズファーストなんで、自分は融通を利かせてもらっていますけど、A級以上になると受講するだけで審査はありますし、簡単に講習会に参加できない。難しさはかなり感じていますが、チャンスがあればトライしてみたいです」
ちょうど2年前の2022年春、長谷部は指導者ライセンス取得の現状をこう説明していた。その後の2年間はプレーヤーに専念していた様子だが、引退後は本腰を入れてそちらの道に進むことになる。
日本代表でキャプテンを務めていた頃の長谷部(中央)=筆者撮影
長谷部はフランクフルトのアカデミーかセカンドチームで指導か?
本人もドイツで勝負していく覚悟を固めている。4月17日の引退会見をあえてドイツ語で行ったのは、その表れだろう。日本人記者の質問にもドイツ語で答えたというから「自分はこれからもここでやっていくんだ」という意思表明をしたかったのだろう。クラブ関係者や現地記者からも温かい拍手を送られたようだが、彼ほど周囲の人に大きな信頼を寄せられる日本人選手はそうそういない。
だからこそ、フランクフルトというビッグクラブが2027年まで契約してくれているのだろう。引退直後から長谷部は育成年代、もしくはセカンドチームなどで指導に当たることになると見られる。現役目線を持ちながら現場に立てるというのは、彼の大きなアドバンテージになる。まずはドイツでコーチとしての基盤を固め、最終的には日本サッカー界にその経験を還元してくれれば理想的だ。