発売当時は「リトルツインスターズ 」の陰に隠れた、地味な存在だった
ハローキティは、「プチパース」というビニール製のがま口の一デザインとして 社内デザイナーが 考案したキャラクターだった。プチパ―スにはいくつかのキャラクターデザインがあり、当初、ハローキティはそのひとつ。特に名前も付けられていなかったが、その中でこのデザインが良く売れたことから「ハローキティ」と名付けられ、商品化されていった。
1974年、翌年販売されるグッズ「プチバース」の一デザインとして描かれた「はじめてのハローキティ」。当時はこのデザイン案に対して名前はついていなかった
1975年3月、ハローキティグッズ第一号として発売されたビニール製のがま口「プチパース」(当時の定価240円)
「とはいえ、当時はそこまで売れているわけではなく、知名度も高くありませんでした。むしろ同年代のリトルツインスターズのほうが圧倒的に売れていたんです」(山田氏)
ではなぜ、ハローキティがブレイクし、生き残ることができたのか。1980年代に社内から選抜されたハローキティの3代目デザイナーが「このままハローキティが売れないと、世の中から忘れられ、消えてしまう」と危機感を抱き、デザインでさまざまなトライアルをしたからだという。サンリオでは当時から、キャラクターの担当デザイナーがファンの目の前でキャラクターの絵を描く「サイン会」が行われているが、そのサイン会でファンの声を聞き、その時々のトレンドを踏まえテニスをさせるなど、様々なハローキティの世界観 を広げて売上を伸ばし続けた。
「普通であれば、キャラクターの過去や今を守っていくかがコンテンツホルダーの役目。でもそのままだと古くなってしまうと考え、常に新鮮なデザインに挑戦して、アップデートし続けた。そうした中でキャラクターがどんどん進化して、世の中に広まっていったのだと思います」(山田氏)
ファンを驚愕させた「モノトーンシリーズ」、大人女子の心もつかんだ「パールシリーズ」
こうした徹底した顧客リサーチにより、インパクトの強いデザインを生み出した結果、ハローキティブームが何度も起こり、世界中にファンを拡大していった。特にハローキティファンに大きな衝撃を与えたのが、それまでのカラフルなイメージから当時流行のモノトーンでまとめられたデザインにイメージチェンジした「モノトーンシリーズ」(1987年発売)。1988年「タータンチェックシリーズ」では、当時人気だったアイドルグループ「チェッカーズ」の衣装にヒントを得たデザイン。
当時流行のモノトーンでまとめられたデザイン1987年「モノトーンシリーズ」、アイドルグループ「チェッカーズ」の衣装にヒントを得た1988年「タータンチェックシリーズ」
女子高生やOL・主婦など大人の女性の間でハローキティ人気が再ブレイクするきっかけとなったのは当時のファッションリーダー的な女性芸能人が相次いでハローキティ好きを公言するようになったこと。サンリオはそれにあわせて高校生以上向けのハローキティ商品を展開し、大ヒットさせた。
当時、女子高生に流行していたハイビスカスをつけた1996年「パールシリーズ」
そうした外部の流行をうまく取り入れることができたのも、グッズ化を前提にしていたから。「見るだけだったら固定の世界観でもいいかもしれませんが、実生活の中で使うことが前提のグッズだからこそ、外部のトレンドを柔軟に取り入れることができたという部分もあるのかもしれません」(山田氏)
初めて横向きのシルエットになったキティが斬新と話題になった2008年「シルエットシリーズ」
2012年「イチゴマン」は、2011年にスタートした「ハローキティアート展」から生まれた新キャラクター。人間の持つ腹黒い心や、邪悪な心が生み出したモンスターと戦うスーパーヒーロー、その正体はキティという設定
「なかよくするために、相手に寄り添える」のがキティのパワー
トレンドを取り入れて進化しつつも、世界観が揺らがなかった理由は二つある。ひとつは、ハローキティが他のキャラクターと比較しても非常にシンプルなデザインであること。もう一つは、サンリオの企業理念でもあり、ハローキティの一番大事な「みんななかよく」というメッセージを守っているからだという。
ハローキティがさまざまな業種とコラボしているのは、この「みんななかよく」というメッセージを体現しているからでもあるが、それがキャラクターとしての幅を広げていくことにもつながった。「なかよくするために、ハローキティはコラボする対象に寄り添っているんです。時には、自分の見た目が変わることも恐れずに、相手にふさわしいデザインに寄り添っていくことをよしとしている。だからコラボレーションしやすく、多くの企業様からお声がけいただくのでは」(山田氏)
コラボする相手には柔軟に寄り添う一方、暴力的な要素を徹底的に排除しているのも、ハローキティをはじめとするサンリオキャラクターの特徴だという。使う人によっては人を傷つける武器になる道具などとはコラボしていないし、人を傷付けるバトル要素の強いコンテンツとはコラボを行わなかったり、内容を見直したりしてきた。「『みんななかよく』を体現しつつ、『みんななかよく』と相いれないものは排除してきた。そのさじ加減やバランスも、愛され続けている理由かもしれません」(山田氏)。
時代に寄り添い、「力を貸して欲しい」と協力を求めてきた企業に寄り添い、傷つきやすく繊細なファンの心に寄り添ってきた。その「寄り添い力」こそが、50年間にわたり愛されキャラとして存在しえた秘密なのだろう。
「動くキティ」が見られる動画専用アカウントを開設
日本のキャラクタービジネスの先駆的存在で、キャラクターグッズ業界を牽引してきたサンリオだが、デジタル時代に対応したデザインの拡張が今後の課題だという。「今はグッズ以外にもスマホのデジタルコンテンツとの接点が非常に多くなってきている。その中で、サンリオの魅力をどう伝えていくかということに挑戦しています。グッズと違い、デジタルコンテンツの場合はキャラクターが動いたりすることが必要になってくるので、そういったところも含めてデザインに新たな視点を取り入れています」(山田氏)。
ハローキティ50周年を記念し、TikTokで「ハローキティ公式50周年」アカウント(@hellokitty_50th)と、ハローキティの動画専用アカウント「This is hello kitty」(@this_is_hellokitty_)を開設し、トレンド動画やキティのショートアニメーションなど、様々な動画が投稿されている。また既存のグローバルハローキティ公式アカウント(@hellokitty)でもキティの魅力を伝える動画を投稿している。
「サンリオの原点はグッズなので、いつも手元に置いて長く愛し続けられるようなもの、つい触れたくなったりギュッと抱きしめたくなったりするようなかわいらしさ、部屋にあってずっと視界にあっても邪魔にならないやさしさと温かさを前提にデザインされています。そういう“サンリオらしさ”はデジタル化する時も、置き去りにしてはいけないと思っています」(山田氏)
2024年 「50th ANNIVERSARY」。50周年は「Friend the Future 未来とともだちになろう」というテーマの下、様々な活動を行うハローキティ。この50thデザインには「今までも、これからも、キティがみんなにとって思いやりのある特別な存在でありますように」という願い がこめられているという。
サンリオ本社のロビーに飾られたハローキティ50周年記念デザイン「HELLOみんな!」のデザインボード。サンリオのさまざまなキャラクターがハローキティのカチューシャをつけて、50周年をお祝いしている
取材・文/桑原恵美子
取材協力/株式会社サンリオ
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