リクルートから「物流業界の生産性向上」に関する求人と転職の動向に関して、同社物流領域専任コンサルタント 吉川 宗 氏の解説による調査リポートが発表されたので、その概要をお伝えする。
必要なときに必要な数だけ配送する「物流の小口化・多頻度化」が進行
物流業界において、貨物1件当たりの貨物量は減少している一方で、物流件数は年々増加している。
これは、EC市場の拡大や消費者ニーズの多様化によって、必要とされているときに必要な数だけ配送する「物流の小口化・多頻度化」が進んでいることが背景にあるためだ。
また、2010年度以降、トラックの積載率は40%に満たない水準で推移している。
そんな物流業界において、物流企画関連求人や、「物流のデジタル化」に関わる求人が増加している。
実際、『リクルートエージェント』における求人数推移を見ると物流企画関連求人は2014年を1として、2023年は17.49倍、「物流のデジタル化」に関わる求人は14.76倍に増加した。
運輸・配送・倉庫などを中心にサービスを展開する物流業界の企業のみならず、メーカーなどの事業主側も物流部門強化のために求人を増やしている。そこには物流の仕組み自体を改善し、生産性の向上を実現する狙いがある。
こうした動きを受けて現場では少しずつ生産性向上を実現する事例も出てきた。
物流マッチングプラットフォームの活用や共同配送による積載率の向上、荷主側の物流プロセス変革によるドライバーの待機時間削減なども少しずつ進んでいる。
「2024年問題」で輸送能力の不足が懸念される物流業界において、企業はこれまでの常識を見直し、生産性向上のための抜本的な仕組みの改善が求められているのではないだろうか。
■物流企画関連求人への異職種からの転職者は、2014年比7.60倍と同職種出身者の3.71倍を大きく上回る
物流の小口化・多頻度化によって物流件数が増加する中で、プロセス上の「品質」「コスト」「生産性」を管理する「物流企画」や「物流管理」「輸配送管理」などの物流企画関連求人が増加している。
2023年の物流企画関連求人への転職者は全体で、2014年比5.46倍に増加しているが、異職種からの転職は2014年比7.60倍と同職種からの転職の3.71倍を大きく上回り推移している。
■「物流管理」への転職事例
中でも「物流管理」求人への転職では、アパレルや小売りなどで販売・サービス職経験のある人の転職が目立つ。需要予測に基づく在庫管理経験や、売上などの数値管理能力が「物流管理」の業務プロセスと親和性があり、そのスキルを高く評価され採用されるケースが増えている。
■「物流のデジタル化」に関わる求人の増加背景
物流業界では生産性向上のために、他業界よりも比較的遅れていたデジタル化を推進しようとする動きが見られる。
そうした流れを受けて、物流とITを融合したサービスを提供する、「IT・インターネット業界の物流テック」求人や、「物流業界のITエンジニア」求人が増加している。
■「物流業界のITエンジニア」への転職事例
社内にデジタル系の部門を設立する企業も増えており、システム開発等を請け負うSIer企業から、「物流業界のITエンジニア」に転職をするケースが近年増えている。
デジタル化推進のための課題、解決策
物流業界は長らくデジタル化が遅れており、デジタルに不慣れな側面も見られる。
ただ単にデジタルツールを導入するだけでは、現場で適切に運用されずにデジタル化が進まないということも考えられる。
まず乗り越える必要がある課題は、デジタルツールをいかに現場に浸透させていくかだ。
デジタルに不慣れな人でも使いやすいUI/UXにすることや、システムの使い方を丁寧にサポートする支援機能も重要となってくるだろう。
また、社内のデジタル化推進を担う「ITエンジニア」の採用も重要な課題となる。彼らが働きたいと思えるような環境づくりや、デジタル化にかける経営の本気度も重要になってくる。
業界全体を広い目で見ると、「物流テック」関連のサービスも急激に増えてきており、物流業界のデジタル化の兆しが徐々に見え始めている。
一方で現状は、デジタル関連サービスが乱立しており、本当の意味での全体最適化ができていない状況と言えるのかもしれない。
今後、デジタル化をより確かなものにするためにも、業界全体でプラットフォームの最適化を図るなど、各ステークホルダーが手を取り合って、デジタル化を推進していく動きが必要になってくるはずだ。
調査概要
調査方法/『リクルートエージェント』求人データの分析
調査対象/『リクルートエージェント』求人データ
有効回答数/非公開
調査実施期間/2023年12月~2024年2月
調査機関/リクルート
関連情報
https://www.recruit.co.jp/
構成/清水眞希