SDGs達成に向けた取り組みにおいて、全国各地の地域密着の食品・飲料メーカーが注目しているのが「地域産原料」の使用。その地域の原料を使うことで地域への貢献に繋がり、さらに輸送面でCO2排出量を削減できる。
沖縄県のビールメーカー「オリオンビール」も地域貢献のために沖縄県産原料を使用した製品造りに力を入れており、この春は沖縄県産パッションフルーツを使ったフルーツワインを発売したが、これが発売4日目で同社の在庫が無くなるほど大人気だ。人気の理由やオリオンビールの沖縄への想いを聞いた。
ECサイトは2日で完売。在庫は4日で空になったワイン
心地よい酸味でやや辛口の「Southern Cross Winery パッションフルーツ」。
2024年3月19日(火)に発売した「Southern Cross Winery パッションフルーツ」は「食事と楽しむこと」をコンセプトに、沖縄県産パッションフルーツを使ったフルーツワイン。パッションフルーツの酸味を感じながらスッキリとした味わいが特徴で、「オリオンビール」が初めて手がけたワインとなっている。
「フルーツワインというと“甘い”と思われるのですが、飲んでいただいた方には『意外とおいしいね、良い意味で』と言われます(笑)」と話してくれたのは、マーケティング本部の山本純里さん。実際に飲んだ人はそのおいしさに惹かれ2本、3本と追加購入し、プレゼントとしての需要も高かったと言う。
結果としてECサイトの販売分はわずか2日で完売、そして沖縄県内の量販店・飲食店・ホテル・お土産品店等へ出荷する在庫は4日で無くなるヒットとなった。現在は2024年夏頃の再販を目指し、製造計画を立てている。
新製品のワインを製造する、糸満市の「Southern Cross Winery」。
そもそもオリオンビールが初のフルーツワインを発売した一番の理由は、多様化する消費者の飲酒ニーズに対応すること。オリオンビールでは2019年に発売開始したチューハイ「WATTA(ワッタ)」を皮切りに、消費者のその日の気分やシーンに合わせてビール以外のお酒を提案できるよう総合酒類化を進めている。その一貫として沖縄らしいトロピカルフルーツを使用するという方針の元、ワインを販売することとなった。
実は沖縄県産フルーツを使用したワインのアイデアが生まれたのは、10年以上前。Southern Cross Winery パッションフルーツの開発を担当したRTD商品開発部 主任 浜比嘉望美さんは「2012年に製品案として開発していましたが、製造する手段がなかったため断念しました。しかし2022年に糸満市が市営施設内で営業・製造する事業者を公募し、施設運営事業者として手を上げた結果、それが認められ、ワイン造りが始まりました」と当時を振り返る。
皮を剥き、種付きのパッションフルーツピューレを、発酵後期のワインに漬け込む。
特徴的な原料の「パッションフルーツ」は、主にワイナリーと同じ場所の沖縄県・糸満市産を使用。糸満市はパッションフルーツの生産が盛んで、包括連携協定を結んでいる「JAおきなわ」協力のもと、複数農家が栽培したパッションフルーツを仕入れ、原材料を確保している。地元農家の栽培したフルーツを一定量買い取ることで農家の収入の下支えに繋がり、持続的な農業生産に貢献できるのだ。
RTD商品開発部 主任 浜比嘉望美さん、マーケティング本部の山本純里さん。
ワイン開発は浜比嘉さんをはじめとする製造開発担当3人とマーケティング担当の山本さんを合わせた合計4人を中心に、少数精鋭で進行。浜比嘉さんと山本さんはソムリエ資格を持ち、Southern Cross Winery パッションフルーツは“沖縄の素材を知り尽くしたソムリエが造りだす”ことにもこだわった。
開発中はソムリエ資格を持つ社員10名ほどで試作品を評価し、フィードバックを受けて味をブラッシュアップ。浜比嘉さんも「味には自信がある製品が完成しました」と自信を持って断言している。
成功の鍵はPR戦略。沖縄県民がワインを中心に、みんなで食事を楽しめる機会を創出
THE ORION BEER DININGで行われた製品発表会では、新製品とともにワインに合う料理も提供。
オリオンビール初のフルーツワインが、たったの4日で在庫が無くなる――これは、オリオンビール自身も想定していなかった。山本さんによると、PR戦略の成功がヒットに繋がったと言う。
山本さん「新製品の話題を最大化するために、沖縄県内のメディアとインフルエンサーに向けた製品発表会を行いました。従来、発表会では製品説明のみ行いますが、今回はオリオンホテル那覇のTHE ORION BEER DININGで料理と一緒にペアリングを体験いただきました。食中に合うワインであるというコンセプトをみなさまに理解いただき、沖縄県内で大きな注目を集めることができたと思います」
製品発表会後は記事や投稿を見た沖縄県民による、小売店への取り扱いに関する問い合わせが増加。話題となる製品を販売したことで、沖縄県のレストランや家庭で食事をより楽しめる機会を創出できたのでは、と山本さんは考えている。
山本さん「ひとつのボトルを、大切な人と一緒にゆっくり楽しめる製品だと思います。もちろん、観光で沖縄に来た方も、再販後はワインを飲んで思い出を作ってもらえたら嬉しいですね。そして沖縄から地元に戻った時にECサイトからワインを買って、沖縄を思い出してもらえたら本望です」
サステイナブルな沖縄の未来を目指して、循環型産業の構築を図る
沖縄県産大麦を使用している「オリオン ザ・ドラフト」。
今回のワイン造りもそうだが、オリオンビールは「沖縄から、人を、場を、世界を、笑顔に。」というミッションを掲げ、沖縄のために事業を展開している。戦後、沖縄の社会経済復興を目的に創立した1957年から、半世紀以上に渡って沖縄への地域貢献を第一に考えているのだ。
2021年からは看板製品のビール「オリオン ザ・ドラフト」に沖縄県伊江島産の大麦を副原料として使用開始。冷涼な気候を好む大麦を亜熱帯気候の沖縄で育てるのは至難の技だったが、琉球大学協力のもと、沖縄での大麦栽培に成功した。
現在は伊江島だけではなく南城市にも大麦栽培が広がり、「沖縄県内の農家にとっては栽培する品目が増えたというメリットもあります」と、経営管理本部 サステイナビリティ・広報部 部長 丁野良太さんは話す。
オリオンビールは将来的に、原材料をすべて沖縄県産とするビールの生産も視野に入れている。現在、沖縄県産の大麦・水・酵母はそろっており、最後の難関が「ホップ」だ。
大麦と同じく寒冷地が栽培に適しているホップを沖縄で栽培するのは難しいものの、琉球大学との研究で2022年8月に沖縄で初めてホップの収穫に成功した。
1缶まるごと沖縄県産のビール完成への展望が見えてきてはいるが、台風など沖縄特有の気候に対応しながら大量に収穫することはまだまだ課題となっている。
ワインに漬け込んだ後の果実の搾りかす等をアップサイクルする方法を検討中。
また、大麦の肥料にビールの製造過程で発生するビール粕を使用し、その肥料で育った大麦でビールを造るなど、沖縄県内での循環型産業の構築も目指しているオリオンビール。
ビール以外にも傷や形を理由に市場では販売できず、廃棄する運命にあった規格外の豊見城市産キーツマンゴーを仕入れてアップサイクルし、2020年と2021年にチューハイ「WATTA キーツマンゴー」を販売した実績もある。「Southern Cross Winery パッションフルーツ」でも、生産体制が安定した後は、果実の搾りかすなどを活かしたサステイナブルな製品の開発に着手できないか、模索を続けている。
沖縄の地域振興のために愛情を持って造り、沖縄県民にその想いが届いた「Southern Cross Winery パッションフルーツ」。ほかにも地域産原料を使用している製品は全国各地にあるが、オリオンビールは創立から一貫した地域振興への想い、その想いの認知を広げるPR戦略が今回のヒットを生み出したと考えられる。
もちろん、ワインそのものの「おいしさ」も成功の要因だ。人員確保など課題は残っているが、「Southern Cross Winery パッションフルーツ」の再販予定は今年の夏で、毎年沖縄本島・宮古島・石垣島で実施している「オリオンビアフェスト」が今年も開催することになれば、フルーツワインの提供も検討したいと言う。県外の人も、この夏に沖縄旅行で見かけたら、地域への想いが詰まったこのワインを、ぜひ試してみてほしい。
・オリオンビール「Southern Cross Winery」
https://www.orionbeer.co.jp/brand/southerncrosswinery/
取材・文/小浜みゆ