2024年4月16日の外国為替市場において、円相場は一時154円79銭をつけるなど、約34年ぶりとなる円安水準を再び更新。アメリカFRBのパウエル議長による「インフレ抑制には時間がかかりそうだ」という発言が、その要因の一つだと指摘されている。
こうして政府・日銀が155円を〝防衛ライン〟として市場介入の警戒感が強まる中、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川 雅浩氏による日本円の需給に関するリポートが到着したので、その概要をお伝えする。
経常黒字の中身は2000年代半ば以降、貿易収支の黒字から第一次所得収支の黒字に変化
ドル円は年初からドル高・円安が進み、足元で1ドル=155円に近づきつつある。背景には、景気の底堅さを背景とする米利下げ期待の後退(ドル高要因)や、日銀が当面緩和的な金融環境を継続するとの見方(円安要因)などがあると思われる。
ドル円は目先、日米の金融政策や金利差の動きに、敏感に反応する展開が予想されるが、今回のレポートでは、やや中期的な観点から、日本の経常収支の構造変化と円の需給について考える。
図表1は、1996年から2023年までの期間における、年間の経常収支とその構成項目の金額推移を示したものだ。
経常収支は1996年以降、黒字が続いているが、構成項目をみると、2000年代前半までは貿易収支の黒字が多くを占めていたことがわかる。
しかしながら、2000年代半ば以降は、貿易収支に代わって第一次所得収支の黒字が、経常収支の黒字をほぼ構成するようになった。
■第一次所得収支の黒字は一般に再投資され円高要因になりにくい、最近はデジタル赤字に注目
貿易収支の黒字が減少した要因として、海外生産比率の上昇による輸出の減少、原油価格の上昇による輸入の増加などが考えられる。
なお、第一次所得収支とは、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金などの収支状況のこと。
第一次所得収支を構成する直接投資収支と証券投資収支は1996年以降、増加傾向にあるため、過去に行った対外直接投資や対外証券投資のリターンが積み上がり、第一次所得収支の黒字増加につながったと推測される。
一般に、貿易収支の黒字は輸出超過であるため、為替市場で外貨売り・円買い取引が発生し、円高要因と考えられる一方、第一次所得収支の黒字は対外直接投資や対外証券投資のリターンであるため、海外で再投資されるケースが多く、円高要因にはなりにくいと考えられる。
また、最近では、サービス収支のうち、海外企業のウェブ広告やクラウドなどデジタルサービスに支払う、「デジタル赤字」の拡大が注目されている。
■デジタル赤字は円売り要因、旅行収支の黒字は円買い要因、円の需給ではサービス収支も重要
サービス収支は、輸送、旅行、その他サービスで構成され、1996年から2023年までの年間金額の推移は図表2のとおりで、赤字基調にある。
デジタル赤字を計算する際によく用いられる、(1)著作権等使用料、(2)通信・コンピューター・情報サービス、(3)専門・経営コンサルティングサービスは、その他サービスに含まれるが、足元で、その他サービスの収支の赤字は増加傾向にあり、これは外貨買い・円売り要因となる。
旅行収支は赤字から黒字に転じているが、これは日本から海外への旅行より、海外から日本への旅行が増えているためで、外貨売り・円買い要因となる。
このように、日本はこの28年ほどで、「輸出で稼ぎ海外に旅行する」構造から「対外金融資産で稼ぎ、デジタルサービス料を払い、海外の訪日客で賑わう」構造へと変化したと判断できる。
そのため、円の需給をみる上では、貿易収支に加え、サービス収支の中身も重要と思われる。
構成/清水眞希