2024年4月14日、イランがドローンや弾道ミサイルによるイスラエル攻撃を行った。イスラエル軍の発表によれば約170機のドローンと、約120発の弾道ミサイルが使われたという。
そんな今回のイスラエルへの攻撃の発端となったのが、4月1日に起きたイスラエル軍による、シリアの首都ダマスカスのイラン大使館への空爆だ。この攻撃で軍高官などの人的被害も被ったイランは、最高指導者のハメネイ師などが報復を表明していた。
今後、両国の紛争はどんな展開を見せるのか。中東情勢は原油価格にも大きな影響を与えるだけに気になるところだ。
そんな中、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川 雅浩氏による関連リポートが到着したので、概要をお伝えする。
イランが4月13日から14日にかけてイスラエルに対する初の直接攻撃を実施
今回のレポートでは、イスラエルとイランの対立が深まるなか、緊迫化する中東情勢の要点を整理する。
直近の動きをまとめると、イランメディアは4月1日、イスラエルがシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺を空爆し、イラン革命防衛隊(同国指導部の親衛隊の性格を持つ軍事組織)の司令官らが殺害されたと報じた。
これを受け、イランの最高指導者ハメネイ師は2日、声明でイスラエルに報復を警告した。
そして、イラン革命防衛隊は13日から14日にかけて、イスラエルに向けドローン(無人機)や弾道ミサイルを発射。イランは1979年のイラン革命以降、45年にわたってイスラエルと敵対してきたが、イスラエルへの攻撃は、親イラン勢力を代理に使った間接的なものだった(図表1)。
そのため、今回のイスラエルに対する直接攻撃は、初めてのことになる。
■イスラエルが報復に踏み切れば中東情勢はさらに悪化し、原油急騰で市場は大きく混乱の恐れも
イスラエルは米国などの協力も得て、イランによる攻撃のほとんどを迎撃したとしているが、イランのバゲリ軍参謀総長は14日、攻撃は意図的に抑制されたものであることを示唆し、「作戦は終了した。継続するつもりはない」とも述べた。
一方、イスラエルの戦時内閣は現在、イランへの対応策を協議している模様ですが、イスラエルがイランに対し報復攻撃に踏み切った場合、中東情勢は一段と悪化する恐れがある。
仮に、中東地域をより広く巻き込む紛争に発展した場合、原油の安定的な供給に対する不安が強まり、原油価格の急騰が予想される。
原油急騰で欧米諸国のインフレが再燃すれば、利上げ再開に対する警戒や、スタグフレーション(高インフレと不況の併存)への懸念から、市場は株安、債券安の反応も想定される。
日本でも、再び輸入コストの上昇が国内物価を押し上げ、消費低迷や日銀の追加利上げの思惑から、同様に株安、債券安が見込まれている。
■米国の反対もありイスラエル報復の可能性は低いが、市場には一定程度の警戒感が残る見通し
ただ、イスラエルとイラン、それぞれが抱える事情を踏まえると、イスラエルがイランに対し報復攻撃に踏み切る可能性は低いと思われる(図表2)。
イスラエルは、パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘を続けており、イランと報復の応酬に発展すれば、大きな負担となる。また、イランは米国の経済制裁などで国内経済が悪化しており、イスラエルとの本格交戦は避けたい意向があると推測される。
また、米ニュースサイトのアクシオスは13日、バイデン米大統領が同日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談し、イランへの報復に反対する意向を伝えたと報じた。
イスラエルが自国の状況を勘案した上で、バイデン氏の助言を聞き入れるとすれば、中東情勢の深刻な悪化は避けられる見通しだ。
ただ、親イラン勢力の動きは読みにくく、偶発的な衝突で状況が悪化することもあるため、市場には一定程度、警戒感が残ると思われる。
構成/清水眞希