「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
心が壊れてしまう前に人を頼ろう
■介護疲れでうつになったXさん
認知症グレーゾーンや認知症の人をサポートしているご家族は、自分一人ですべてを背負ってしまう傾向があります。責任感の強い人ほど、「自分一人でやらなければ」と思いがち。しかし、できないことはできない、やりたくないことはやりたくない、と周囲の人にはっきり示さないと、いずれ限界がきてしまいます。
専業主婦のXさん(52歳・女性)もそうでした。
Xさんは結婚当初から、ご主人の両親と同じ家で暮らしてきました。
まず、10年ほど前に義父が脳卒中で倒れ、自宅で5年ほど介護したあとに亡くなります。そして、その後まもなく、今度は義母が認知症と診断され、訪問介護のサポートを受けながら、Xさんが中心となって介護をしてきたそうです。
ご主人は定年退職後も仲間とゴルフに興じ、母親の介護には一切無関心。
30歳の一人息子も、認知症の祖母を負担に思ってか実家へ来ることも少なくなり、Xさん一人で介護を担っていたのです。
ところがです。
50歳を過ぎた頃から、Xさんの様子がおかしくなりました。
それまでは、ヘルパーさんや訪問看護の看護師さんにいつも笑顔で対応し、お茶を出すなどの細やかな心遣いをする人だったのに、口数が減り、表情が乏しくなって、ついには誰が来てもボーッとした様子であいさつもしなくなってしまったのです。
ヘルパーさんが「これはちょっとおかしい」とご主人に伝えたところ、ご主人も気づいていたようで、そこからやっと母親の介護に参加するようになりました。
その後、事情を知った息子さんも、土日は祖母の介護を手伝うようになり、母親のXさんと一緒に過ごす時間を増やしました。
ご主人や息子さんは、慣れない介護や家事に一苦労の毎日。それを今まですべてXさんが一人で担ってきたことに、やっと2人は気づいたそうです。
■「自分がやらなければ」からの解放が心を回復させた
そうしたなかで、Xさんの症状は少しずつ回復していきました。かかりつけ医の診断によると、介護疲れによるうつ症状だったといいます。
老年期うつ病は、認知症の大きな引き金となります。Xさんの場合、ご主人と息子さんの気づきがなかったら、認知症グレーゾーンに進んでいた可能性があります。
3人で介護と家事を分担するようになり、Xさんの症状が回復してから1年ほど経った頃、3人に見守られながら認知症のお義母さんは亡くなりました。
Xさんはずっと「自分がやらないと、お義母さんの介護を含めて家の中のことが回らない」と考えていたそうです。しかし実際には、自分ができなくなったら、ご主人と息子さんが代わりに行ってくれました。
つまり、「自分一人ですべて背負わなくていい」「人を頼れば何とかなる」と気づいたことで、Xさんの症状は順調に回復し、お義母さんも家族のやさしさに包まれながら旅立つことができたのです。
Xさんのケースは認知症のお義母さんの介護ですが、認知症グレーゾーンの人をサポートするご家族にも同じことがいえます。
上手に人を頼りましょう。
認知症のご家族と同じくらい、あなたも大切です。
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いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。