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糖尿病は1.5倍、高血圧は1.6倍、認知症リスクを高める生活習慣病の恐怖

2024.07.20

「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。

ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!

認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。

認知症グレーゾーンを悪化させる7大因子とその改善法

趣味をもつこと、人との交流、運動、食生活、睡眠……。

認知機能の衰えを食い止め、認知症グレーゾーンからUターンするには、前章まででお話ししてきたような方法を試すことがカギになります。認知症は生活習慣病の一つですから、日々の生活を見直すことが最重要であることは間違いありません。

一方で、より直接的に認知症や認知症グレーゾーンの引き金になってしまうものがあります。

それは、加齢による「老化現象」です。

前のページに書いたとおり、認知症の最大のリスクは「難聴」です。

その理由は後ほどお話ししますが、ほかにも、「視力低下」「歯周病」「高血圧」など、加齢とともに増えていく健康のトラブルと認知症は無関係ではありません。

これらの老化現象も含めた、私の考える、認知機能を低下させる「7大因子」は、次のとおりです。

(1) 難聴
(2) 老眼、白内障
(3) 歯周病
(4) 喫煙
(5) 生活習慣病
(6) うつ病
(7) 孤立(孤独)

この章では、認知症グレーゾーンの発症と進行を促すこれら「7大因子」を取り上げ、気づきポイントや改善策をお話ししていきます。

また、こうした加齢による症状は、本人が気づきにくいことが少なくありません。

ご家族の気づきポイントや、サポートするうえでの注意点などについても、実際にあったエピソードをあげながら具体的に紹介していきたいと思います。

認知症の7大因子(5)生活習慣病

■糖尿病は認知症リスクを1.5倍も高める

これまでお話ししてきたように、認知症は生活習慣病の一つ。ですから、何らかの生活習慣病を抱えている人は、認知症の発症リスクも高くなります。

生活習慣病としては、糖尿病と高血圧がよく知られていますよね。

実際、65歳以上の人では、糖尿病の人はそうでない人にくらべて、1.5倍も認知症が起こりやすいと、『ランセット』掲載の報告書にあります。

糖尿病は、血液中の糖の濃度(血糖値)が高くなる病気です。

健康であれば、食事をして血糖値が上昇すると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されて、糖をエネルギーに変えてくれます。しかし、インスリンの分泌が

減ったり、働きが弱くなったりした結果、糖尿病になると、血液中に糖がどんどんたまってしまいます。当然、血糖値は高いままです。

そうした状態が長く続くと、血管が傷つけられ、動脈硬化が進み、脳血管性認知症の引き金となる脳血管障害が起こりやすくなるのです。 

さらに恐ろしいことに、糖尿病は、アルツハイマー型認知症のリスクまで高めることになります。

その原因は、「インスリン抵抗性」です。

インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されているけれど正常に働かない状態、つまりインスリンの「効きが悪い」状態のことを指し、糖尿病の主な原因の一つとされています。

インスリンが働けば、エネルギー源である糖が細胞に正常に届けられます。しかし、これがうまくいかなくなると、すい臓は「質より量だ!」とばかりに、さらにインスリンを分泌します。結果、血液中にはインスリンがいっぱいに。

そこで登場するのが、「インスリン分解酵素」です。

通常、インスリンはインスリン分解酵素によって分解されますが、じつは、この酵素はアルツハイマー病の元凶であるアミロイドβの分解も行っています。しかし、インスリンの血中濃度が高まると、インスリン分解酵素は、インスリンの分解で手いっぱい。

アミロイドβの分解までは追いつきません。

実際、インスリン抵抗性は、アミロイドβが固まった脳内の「老人斑」の量と相関します。このように糖尿病とアルツハイマー型認知症の関係は説明できるのです。

■高血圧は認知症リスクを1.6倍も高める

「人は血管とともに老いる」

この名言を残したのは、アメリカの医学博士ウィリアム・オスラーですが、まさにそのとおり。一般的に、高齢になるほど血圧が上がりやすいのは、年齢とともに血管が弾力性を失っていくからです。血管がかたくなると血流が悪くなり、血管にかかる圧力が高くなってしまうのです。

だからといって、「血圧が高いのはしかたない」とあきらめてはいけません。

老化した血管に圧力がかかった状態が続くと、脳血管障害による血管性認知症の重大な誘因になります。

九州大学大学院が65歳から79歳の人を対象に行った15年にわたる追跡調査では、血圧の高い人ほど血管性認知症の発症率が高いことが明らかにされています。また、中年期(45~65歳)に高血圧の人は、そうでない人にくらべて1.6倍も認知症のリスクが高いことが『ランセット』掲載の報告書で示されています。

■糖尿病は糖分を、高血圧は塩分を控える

糖尿病や高血圧の改善には、糖尿病の人は糖分のとり過ぎ、高血圧の人は塩分のとり過ぎに注意する必要があります。

WHO(世界保健機関)が2015年に発表したガイドラインでは、肥満や虫歯を予防するためには、1日の砂糖の摂取量を総エネルギー量の5%未満に抑えることを推奨しています。これは砂糖25グラム(小さじ約8杯分)に相当します。

一方、塩分の1日の摂取量(成人)については、日本では男性7.5グラム未満、女性では6.5グラム未満、高血圧の人は6グラム未満が目安とされています。

WHO(世界保健機関)の推奨値はさらに厳しく、すべての成人の塩分摂取量の目標値を5グラムとしています。

■生活習慣の改善は「1粒で4つも5つもおいしい」

甘いものを減らすのも我慢が必要ですが、それ以上に大変なのが減塩です。

日本食はもともと塩味の利いたものが多いうえ、加工食品や出来合いの総菜は、濃い味つけのものが大半。外食も、塩分制限が必要な人には避けてほしいものが少なくありません。好き放題の食生活を送っていたら、認知症へまっしぐら。

毎日の食事は、自炊を基本にしましょう。

最初は減塩食を「味気ない」と感じるかもしれませんが、スパイスや香味野菜などを上手に使ったり、酢で酸味を効かせたりといった工夫をするのも楽しいものです。

そうやって楽しみを見つけながら、薄味の料理に徐々に慣れていくことが、脳へのダメージを減らし、認知症グレーゾーンからUターンするためにも欠かせません。

また、コロナ禍になってから、「孤食」の害が強調されます。ご家族のいる方は、みんなで一緒に食べることも、大きな栄養素だともいえますね。

認知症対策に役立つ食事は、生活習慣病全般に有効な食生活なので、「1粒で4つも5つもおいしい」と、私はよく患者さんやご家族にお伝えしています。

減塩しょうゆや減塩だしなどの調味料は昔からありますし、最近ではインスタント食品でも「減塩」を売りにしたものもあります。減塩食の宅配サービスも増えています。通常の商品やサービスよりも多少値は張りますが、健康には代えられません。

そうはいっても、出来合いの総菜や外食で済ます日もあるとは思いますが、そんなときでも、できるだけ偏りのない食事のバランスを心がけてください。

☆ ☆ ☆

いかがだったでしょうか?

「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。

認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。

認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
Amazonで購入する
楽天ブックスで購入する

著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。

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