「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
脳で筋肉の刺激を拾い上げる「本山式らくらく筋トレ」
歩いたり、立ったりして筋トレを行うことが難しい人のために、座ったままでできる筋トレを紹介しましょう。
筑波大学大学院で、筋力トレーニングと認知機能との関係を研究していた本山輝幸さんが考案した「本山式筋力トレーニング(以下、本山式筋トレ)」です。
本山式筋トレは、ほとんどが座ったままでできるうえに、自分の力を最大限使って筋肉に負荷をかけ、負荷をかけた部位に意識を集中させるのが特徴です。
負荷をかけた筋肉の刺激を感じとるように集中すると、筋肉と脳の感覚神経がつながっていき、認知機能の改善に大きな効果が期待できるのです。
■手足、腹筋、体幹まで鍛える「らくらく筋トレ(1)」
【やり方】
(1) ひざがほぼ直角に曲がる高さのイスに座ります。
(2) 両手をグーにしてくっつけ、ひざの間にはさみます。
(3) 両手で太ももを開くように、左右に思いきり力を入れて押す一方で、両足は開かないように全力で押し返します。つまり、自分の手足を格闘させるのです。
(4) 10秒経ったら、力をゆるめます。
(5) これを2回繰り返します。
【ポイント】
手と足の筋肉の刺激に意識を集中させると、手足の末梢神経から脳へ向かってシグナルが伝わります。
その結果、脳が大いに刺激されて認知機能の回復につながるといわれています。
とてもシンプルな動きですが、実際に試してみると結構ハード。手足の筋肉だけでなく、腹筋や体幹も使うため、自然と全身の筋肉が鍛えられます。
コツは、集中して力を入れること。
負荷をかけた筋肉の部位に強い刺激を感じるくらい全力で押し合いましょう。それでもまったく何も感じない場合は、末梢神経のシグナルが脳へ伝わっていない可能性があり、感覚神経がにぶい状態です。
■認知症グレーゾーンチェックにも使える「らくらく筋トレ(2)」
太ももの筋肉とおなかの筋肉を強化するうえでは、次のような筋トレも役立ちます。
【やり方】
(1) イスに浅く座り、背もたれによりかからず、両手でイスの座面を軽くつかみます。
(2) 片方の足を前方に伸ばします。このとき、太ももの筋肉に意識を集中させます。
(3) ひざがまっすぐ伸びた水平の状態から、さらに10センチほど上げたり、逆に10センチほど下げたりする動作を、10秒かけてゆっくり2~3回繰り返します。
(4) 次に、もう片方の足で(2)(3)を行います。
(5) これを左右の足で5回ずつ繰り返します。
【ポイント】
認知症グレーゾーンの人は、体の末端で受けた刺激を脳へ伝える感覚神経が鈍っている場合が多いので、この筋トレは認知症グレーゾーンのチェックにも使えます。
伸ばした足を上方に上げたときに、太ももに感じる筋肉の痛みが「何も感じない」は0、「限界と感じるほど痛い」を10とし、10段階で自己評価してみましょう。
健康な人は、10秒以上、伸ばした足を上方に上げる姿勢はかなりツラくて、「5~10」の強い痛みを感じます。
一方、痛みを感じない「0~1」の人は、認知機能がかなり衰えている可能性があります。
また、痛みを感じないか、感じてもわずかな「0~3」の人は、認知症グレーゾーンの可能性が疑われます。
■足腰を鍛えて転倒予防「らくらく筋トレ(3)」
認知症グレーゾーンからUターンするうえで効果的な、本山式筋トレをもう一つ紹介します。
【やり方】
(1) イスに座って背筋を伸ばし、両手はイスの座面をつかみます。
(2) 片足ずつ交互に大きく引き上げます。別の片足は床についていて構いません。
(3) 交互に計20回、行います。
(4) これを2回繰り返します。
【ポイント】
足を大きく上げるには、腹筋と太ももの筋肉を使います。この2つの筋肉に集中して刺激を感じとるようにしましょう。
とくに、体のなかでいちばん大きな筋肉である太ももの筋肉の刺激に集中すれば、より大きな刺激が脳に加わります。
また、どちらの筋肉も立ち上がるときに使う筋肉なので、足腰が弱りがちな高齢者の転倒予防にも役立ちます。
本山式筋トレは、筋肉を鍛えると同時に、感覚神経を意識することが重要。ぜひ「筋肉のシグナル」を感じてください。
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いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。