「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
脳を意図的に混乱させる「シナプソロジー」という考え方
■体を動かし、頭で考える
もう一つご紹介したいのが、「シナプソロジー」について。これは、「スポーツクラブ ルネサンス」が開発した脳を活性化するメソッドで、2つ以上の作業を同時に行う「デュアルタスク」を基本としています。
シナプソロジーにおけるデュアルタスクとは、「体を動かす」と「頭で考える」の2つ。たとえば、ジャンケンやボール回しなどの基本的な「体を動かす」動作があるとします。そこに、「頭で考える」課題を追加します。そして、ここがおもしろいところなのですが、2つの課題を変化させ続けるのです。
ここでは一つ、スカーフを使ったシナプソロジーの方法を紹介しましょう。
その名も「スカーフまわし」。
■脳を適度に混乱させる「スパイスアップ」
用意するのは、軽く結んだスカーフだけ。
なければ、ハンカチやタオルでも構いません。
2人で2メートルほど間隔を空けて向き合い、スカーフをお互いに投げ合います。
ただし、投げ手と受け手には、次のようなルールがあります。
〇 投げ手はスカーフを投げるときに、「左」「右」とランダムに指示を出します。
〇 受け手はスカーフを両手でキャッチし、「左」「右」と指示された言葉を言いながら、その方向に体のまわりを1周まわします。
〇 投げ手と受け手を入れ替えながら、これを繰り返します。
投げる、キャッチするという運動に、「体のまわりをまわす」という日常生活のなかではあまり行わない動きを加え、さらに、指示を瞬時に理解するというデュアルタスクが求められるわけですね(次ページイラスト参照)。
これだけでも十分に脳に刺激を与えられますが、さらに変化をつけていきましょう。シナプソロジーでは、これを「スパイスアップ」と呼んでいます。
ここでは、2つのスパイスアップを紹介します。
〇 スパイスアップ1
投げ手は、指示する言葉を「左」「右」から、「鳥」「魚」に変えます。受け手は「鳥」と言われたら「鳥」と答えながら受け取り、体のまわりを左回りに1周まわします。「魚」と言われたら「魚」と答えながら受け取り、体のまわりを右回りに1周まわします。
〇 スパイスアップ2
動きはスパイスアップ1と同じにしつつ、「鳥」と言われたら鳥の名前を言いながら受け取り、「魚」と言われたら魚の名前を言いながら受け取ります。
うまく変化に対応できましたか?
こうして感覚器や認知機能への刺激を変化させることで、脳が適度に混乱する状況を作り出す。これがシナプソロジーのだいご味です。
さらにもう一つ、スカーフを使ったシナプソロジーのメソッドをご紹介。
ここでは、スカーフのほかにお手玉を用意します。お手玉がなければ、ゴムボールでも丸めた紙でも、何でも構いません。
そして、片手でお手玉を上に放り投げて受け取る動作を繰り返し、もう片方の手でスカーフを上下に振ります。
これも左右の手で違う動作を行うデュアルタスクになります。
おそらくは、これなら認知症グレーゾーンの人でも問題なくできるでしょう。
そこでスパイスアップ。
お手玉を持つ手は同じ動作のままに、スカーフを三角形や、横に8の字の形に振り回しましょう。これが案外難しく、私は初めて挑戦したとき、苦労しました……。
☆ ☆ ☆
いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。