「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
筋肉が増えると、脳の神経細胞も増える!
■筋トレで頭の回転がよくなったQさんの例
脳の働きを高めるには、運動も欠かせません。
広告代理店に勤務しているQさん(62歳・男性)は、持ち前のひらめきやアイディアを生かして、数多くのクライアントの広告を手掛け、高い評価を得てきました。
ところが、40歳を過ぎた頃から頭の回転が鈍くなってきたことを自覚し、「もう第一線から退くしかないのかな」と悩んでいたそうです。
そんなとき、健康診断で血圧と血糖値、肥満度の指標であるBMI値が高いことを指摘され、日常的に運動することをすすめられました。
そこで気分転換も兼ねてジムへ通い、マシンを使ったウォーキングと筋トレを始めたところ、パソコンに向かっているときはまったく思い浮かばなかったアイディアが、運動している最中にふっとひらめくことが増えたといいます。
運動を続けるうちに、仕事の勘がどんどん戻ってきて、また自信をもって働けるようになったことがうれしいと、Qさんは話します。
また、健康診断の数値も改善され、筋トレによって体が引き締まったことから、家族の間で「お父さんカッコよくなった」と大評判。そのことがまた運動を続けるモチベーションとなり、最近は奥さんと一緒にジムへ行き、帰りにレストランで食事をするという新たな楽しみが増えたとおっしゃっていました。
■筋肉から、脳をイキイキさせるシグナルが
Qさんのように、「運動を始めてから頭の働きがよくなった」とおっしゃる人はたくさんいます。認知症に対しても運動の効果はバツグンで、日常的な活動量の多い高齢者ほど、認知症の発症率が低い傾向にあることが知られています。
運動によって脳の働きが高まる理由としては、脳の血流が増えることがよくあげられます。もちろん、それは確かですが、それ以上に注目したいのが〝筋肉〟です。
筋肉が動くときに分泌されるマイオカインという物質のなかには、脳の神経細胞が減るのを防ぐだけでなく、脳の神経細胞を増やす働きをするものが存在するという研究が報告されているのです。
以前は、筋肉は脳からの一方的な指令で動いていると思われていました。
しかし実際には、筋肉からも絶えず脳にシグナルが送られていて、筋肉が動くこと自体が脳の活性化に寄与することがわかってきています。
つまり、筋肉を鍛えている人は脳の神経細胞も一緒に増やしているということです。
「脳の神経細胞って、大人になってからでも増えるの?」と、驚く人もいるでしょう。
おっしゃるように、少し前までは、脳の神経細胞は成人後に増えることはないと考えられていました。
しかし現在は、脳の神経細胞は年をとっても増えることがわかっており、ハーバード大学医学部のレイティ博士は、「運動こそが、脳の神経細胞を増やすために最も効果が期待できる」と述べています。
■筋肉が萎縮したマウスは記憶障害に
さらに運動には、感情や思考に関係するドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の分泌を促す効果もあるといわれており、認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)の初期に見られる「めんどうくさい」を改善するうえでも最適です。
逆に、運動不足によって筋肉(骨格筋)が萎縮すると、それだけでアルツハイマー型認知症の発症につながることが、富山大学の東田千尋教授らの動物実験で明らかにされています。マウス(若齢のアルツハイマー病モデルマウス)に筋肉の萎縮を誘発したところ、そうでないマウスにくらべて若年例でも記憶障害が発症していたというのです。
認知症の予防、および認知症グレーゾーンからの回復を果たすうえで、運動習慣は不可欠といえます。
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いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。