「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
「思い出」を話すだけで脳は元気になる
■過去に思いをめぐらす「回想法」
年をとると、昔話が増えるといいますよね。でも、じつは「思い出話」には、認知機能の低下を抑える効果があるという説もあるのです。
認知症や認知症グレーゾーンになると、最近の記憶を保つことが苦手になっていきます。一方で、認知症がかなり進行しないかぎり、昔の記憶はよく保たれます。
この脳の中に眠っている記憶を意識的に呼び覚ますことを「回想法」といい、医療や介護の現場でも、認知症のリハビリテーションとして取り入れられています。
この回想法を、ぜひ普段の生活に取り入れてみてください。
ご夫婦で、家族で、お友だちと。
単に昔話を語り合うだけでもいいですが、テーマを決めるとより効果が得やすくなります。ご夫婦であれば、初めて出会った日のこと、初デート、二人で観た映画や旅行、共通の友人、子どもや孫にまつわる思い出などなど。
相手の言葉を否定せず、「そうだったね」「あのときはどうだったっけ?」など、お互いによい聞き手になることが、回想法のポイントです。
日常のなかにあった家電や生活用品をテーマにするのもおすすめです。たとえば、昔懐かしい箱型の白黒テレビや黒電話、それから足踏み式のミシンなど。私が子どもの頃は、まだ洗濯板を使っているご家庭も多く、水を張ったたらいの前にしゃがんで、ごしごしと洗い物をしているお母さんがいました。そういう、同世代だからこそ通じるテーマは、コミュニケーションがとりやすくなります。
そこでご用意いただきたいのが、思い出を呼び覚ます「資料」です。
昔の写真やアルバム、絵、思い出の品や当時のおもちゃ。
懐かしい映画を観たり、音楽を聴いたりするのもいいですね。こうしたものを用意しておくと、五感が刺激され、より記憶が引き出されやすくなります。
■昔の記憶を呼び覚ますことの3つの効果
回想法の認知機能に与える効果については、「改善が見られた」という報告もある一方で、「明らかな効果は見られない」という報告もあるなど、医学的に確証は得られていません。しかし、回想法を行うことで、次のような効果が期待できます。
(1) 認知機能を活性化させる
ひとたび昔のことを話し始めると、次から次へと記憶がよみがえってくることがあります。回想法は、この脳に保存されていた特定の記憶を思い出す「記憶想起」という働きを促します。
また回想法は、「人に話す」という点もポイント。昔を思い出し、語り合うときに、前頭前野の脳血流が増加するともいわれており、2018年の国立長寿医療研究センターの調査報告では、高齢者20人という少ない対象人数ながら、1週間おきに10週間、グループ回想法を行ったところ、記憶に関する認知機能検査において有意な改善が見られたと報告されています。
(2) 心が落ち着き、自信を取り戻す
過去を振り返るときに感じる懐かしさや、当時の楽しい気持ちは、心を落ち着かせます。これまでの人生を振り返り、成し遂げたことへの自信と誇りを少しずつ取り戻し、前向きな気持ちになることができます。
(3) コミュニケーションが生まれる
思い出話を心ゆくまでするのは楽しいもの。同時代を生きた人同士であれば、一体感や仲間意識も生まれるでしょう。何より、「自分の話を聞いてくれる」相手がいることで孤独や不安感が安らぎます。
回想法は、もともと高齢者のうつ病治療法として1960年代にアメリカの精神科医が始めたものです。気分がうつうつとして沈みがちなときには、ぜひ試していただきたい方法です。
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いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。