〝若返りの泉〟を積極的に追い求めるリスク
もしも〝若返りの泉〟を発見した場合、そしてその発見時に周囲に誰もおらず自分一人だった場合、その〝若返りの泉〟を人に教えるだろうか。誰にも知らせずに自分だけがその恩恵にあやかりたいと考えたとしてもある種の生存戦略的には不思議ではないのだが、往々にして健康情報にまつわるリスクはこのへんの考え方と姿勢にもありそうだ。
〝若返りの泉〟に限らず、古来から一部の人々は〝不老不死〟を追い求めて薬の開発や魔術、秘術を編み出したり、肉体の鍛錬や精神の修練などあらゆる試みを行なってきた。その拭い去れない志向性は現在では〝アンチエイジング〟として受け継がれている。
「健康寿命」をなるべく延ばしたいと考えるのはおおむね自然なことだと思えるし、そう望むからこそ各種の健康情報のチェックが怠れないことになる。そして昨今特にコンテンツが充実しているYouTubeで有益な情報を得て目からウロコが落ちる体験をすることがあるかもしれない。
それは「どうして今まで知らなかったのか」と半ば後悔する体験にもなりそうだが、そうだとすればほかにもまだ自分が知らない健康関連情報がけっこうあるのではないかと思えてきても不思議ではない。
そして一部の人々はさらに穿った見方をし、こうした情報の中にはあまり一般には知られたくないという意図が働いている〝限定情報〟があるのではないかとの疑念を生じさせるかもしれない。一部の特権的な人々の間で密かに利用されている〝秘薬〟や〝秘伝〟があるのではないかという疑いが芽生えてきたとしても無理はないともいえるのだが、そう考える人は〝若返りの泉〟を見つけてもきっと人には教えなさそうにも思えてくるがいかがだろうか。
もちろん高額医療などについては、当然だが費用を負担することができなければその恩恵を受けることができず、結果的にある種の特権的な医療にはなるものの、しかしそれは隠されているわけではない。
単に知らなかっただけのものを、意図的に隠されているものと解釈してしまうと、思わぬ〝落し穴〟にも陥りそうである。
YouTubeの中には知って得する有益な情報も溢れているが、一方でなかなか微妙な健康法や施術、医薬品やサプリなども紛れており、その中には〝インフルエンサー〟を介して紹介されていたりするものも少なくない。
限定的にアクセスできた健康関連リソースを人には言わずにこっそり利用して周囲に差をつけたいという欲望が湧くこともわからなくはないが、〝秘薬〟や〝秘伝〟があるというマインドセットには少なからざるリスクがあり実害を被りかねない。そして実際に騙されたり被害を受けたりした人々も少なくないのだろう。
YouTubeのコンテンツから積極的に有益な情報を得ていくことは今後ますます重要になってくるが、自分から積極的に求めているからこその〝落し穴〟にはじゅうぶんに気をつけたいものだ。〝若返りの泉〟が本当にあるのなら、それは皆が知っているはずなのである。
※研究論文
https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-023-17585-5
※参考記事
https://www.psypost.org/people-often-rely-on-youtube-videos-to-make-health-related-decisions/
文/仲田しんじ