「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
一度やめた趣味にもう一度火をつける方法とは?
■創作料理の教室で意欲を取り戻したOさん
認知症グレーゾーンの症状として、長年続けてきた習慣や趣味を突然やめてしまうことがあると書きました。
ただ、いったんは「もうめんどうくさいからやめよう」と思ったことでも、これまでとまったく別の側面からアプローチすることで、失われかけていたやる気に火がつき、認知症グレーゾーンからUターンされるケースは結構あります。
専業主婦のOさん(72歳・女性)は、子育てをしながら家事全般をこなし、子どもたちのお弁当も小中高と12年にわたって作ってきました。ところが、70歳を過ぎた頃から料理をする手際が悪くなっていることを自覚し始めたのです。
前は簡単にできていたことができない。
料理の手順はもちろんのこと、スーパーへ買い物に行っても、何を買っていいのかわからない。やる気はあっても料理の作り方を思い出せない。
それを周囲に知られるのが嫌で、孫が遊びに来たときにも手料理でもてなすのをやめ、外食で済ませることが多くなりました。
母親の変化を感じた娘さんは、自分が通い始めた料理教室へ母親を誘ってみることにしました。そこはちょっと風変わりな創作料理を教えていて、家庭料理には応用しづらいレシピばかりだったとか。
しかし、娘さんに連れられてしぶしぶ訪れたOさんでしたが、いっぺんで魅了されたといいます。今まで自分がやってきた料理とはまったく異なる、いわば常識外れの創作料理を目の当たりにして、「料理って自由なんだ」と初めて気づいたそうです。
それをきっかけに、Oさんは再び料理をするようになりました。さらに、以前と違って料理を楽しんで作るようになったことが幸いしたのか、認知症グレーゾーンから回復することができたのです。
一緒に住んでいるご主人にとっては、正直、突拍子もない料理に驚くことも多々あるようですが、それでもOさんが元気になったことで満足しているとのことでした。
■料理は脳活の最高峰
そもそも、料理は脳をフル稼働させないとできない作業です。献立を考えるところから始まって、冷蔵庫にあるものを確認してから食材を買いに行き、すべての食材をそろえたところでようやく調理がスタート。
ここまでの工程でも、慣れていない人にとっては一苦労で、認知症グレーゾーンならなおさらです。
さらに、調理をするには、煮たり焼いたり炒めたり刻んだり、すべてをちょうどいいタイミングで仕上げ、食卓に並べることが求められます。
このように2つ、あるいはそれ以上のことを同時進行で行うことを「デュアルタスク」といい、脳を活性化するうえでも大変有効です。
料理をする習慣のない方は、ぜひ簡単な料理からでも始めてみてはいかがでしょう。
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いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。