「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
認知症に対する治療は飛躍的に進んでいる
■画期的な治療薬「レカネマブ」が承認へ
認知症グレーゾーン、およびアルツハイマー型認知症に対する治療薬は、これまで症状を抑える対症薬しかありませんでした。
しかし、画期的な薬が日本で承認されることが、2023年8月に決まりました。
レカネマブと呼ばれる薬です。
レカネマブは、日本の製薬会社・エーザイが中心となって開発された薬です。
脳に沈着したアミロイドβを取り除く働きがあり、その効果が認められて、アメリカでは一足先に、2023年7月にアルツハイマー型認知症の治療薬として正式承認されています。
アミロイドβは、10年以上かけて繊維状のかたまりになり、脳内に蓄積していくと考えられています。このかたまりになったアミロイドβを除去する薬は、これまでも開発されてきました。しかし、レカネマブはかたまりができるのを阻止し、最終的に人体に備わっている免疫細胞にアミロイドβを除去させるのが特徴です。
レカネマブを投与した患者さんは、偽薬を投与した患者さんにくらべて、1年半後の認知機能の低下が約27%抑えられ、症状の進行をゆるやかにすることが、国際的な学会で発表されています。これほど認知機能の低下を抑える効果が確認された薬は初めてで、日本はもとより世界でレカネマブの効果が注目されています。
私のクリニックでも、認知症グレーゾーンやアルツハイマー型認知症の患者さんを対象に、点滴によるレカネマブを投与する臨床試験を4年ほど前から行っており、確かな手ごたえを得ています。
たとえばaさん(70歳・女性)は、料理がうまくできなくなり、もの忘れも激しくなってきたことから、私のクリニックを受診されました。検査の結果、認知症グレーゾーンと診断し、本人とご家族の承諾を得てレカネマブの投与を開始しました。現在、2年目を迎えていますが、今のところ症状の進行は明らかに抑えられています。
■認知症医療の問題点と将来的な希望
一方で、レカネマブにはいくつかの問題点が指摘されているのも事実です。
一つは副作用です。レカネマブを投与すると、脳の血管の周りが腫れたり、脳出血を起こしたりするケースがあることが報告されています。
二つ目に、レカネマブを使用できるのは、脳にアミロイドβの蓄積が認められた早期のアルツハイマー型認知症の患者さんにかぎられます。
アミロイドβの蓄積を確認するには、現在のところPET(陽電子放出断層撮影)と呼ばれる検査を行うのが主ですが、PETの検査費用は高額で、設置している医療機関がかぎられるのも難点です。脳脊髄液を採取する検査でも、アミロイドβの蓄積を調べることはできるものの、こちらは患者さんの体に負担の大きいことが問題視されています。さらに、レカネマブ自体の価格が高額で、これもレカネマブの普及にブレーキをかけると予想されます。
したがって、現時点では「レカネマブの登場で認知症が解決する!」とまではいえません。セルフケアで予防に努めるのが基本であることは変わりませんが、認知症の進行を抑えるレカネマブの開発は、患者さんやご家族にとって大きな希望であるのも確かです。
「認知症かな?」と思っても、受診することが怖くて、先延ばしにしてきた人も多いでしょう。
しかし、新たな希望が見えつつある現在においては、とにかく早く見つけるほうが有利であることは確かです。とくに認知症グレーゾーンの段階であれば、Uターンして回復できる可能性が高いので、早期発見・早期受診が最良の選択といえます。
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いかがだったでしょうか?
「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。
認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。
認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること
発行所/株式会社アスコム
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著者/朝田 隆(アスコム)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。
アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。