摩擦帯電ナノ発電機(TENG)※
自然の資源を循環させて活用するサステナブルエネルギーに関心が高まっている。中でも注目が2012年頃から研究が始まった「摩擦帯電ナノ発電機(TENG)」。摩擦で発生した静電気を利用して半永久的にエネルギーを生む新しいシステムだ。
TENG研究で先行する、名古屋大学 未来材料・システム研究所の松永正広助教は、「TENGは周囲の環境の微小なエネルギーを電力に変換する技術『エネルギーハーベスティング』の一種。普段、気に留めてないものから電力を取り出せるのが特徴です」と解説する。世界の研究者が次々と着手し、12年時点で年間6件だった論文の数は、19年に約600件と急激な増加を見せている。
そんなTENGの優れた点を松永助教は「自由度の高さ」だと話す。
「類似した発電機はあるのですが、使用できる材料が限られています。一方、TENGは空気、繊維、紙など様々な材料を使うことができ、材料の組み合わせも非常に多い。使いたい場所に応じた発電機が作れることも利点です」(松永助教)
ただ、ナノと付くように、取り出せる電力はほんのわずかだ。
「出力はマイクロワット程度で、スマホやPCを充電できるレベルではなく、IoTセンサーなどの電源として活用が期待されています。静電気によって発生した電圧自体をセンサーの信号に利用することも可能です。例えば、クルマのシートベルトに貼って居眠りなどのセンシングが挙げられます」
松永助教はこのTENG技術を使って、ウエアラブルデバイスへの活用を目指している。
「電源や回路、通信、センサー一体型の発電シートを皮膚に貼り、健康管理の一助となるシステムを開発中です。服自体を発電機にし、体の動きを無駄なくエネルギーに変える研究も始めています」
TENGに関心を寄せる企業は多いが、用途が広すぎて絞り込めないことが社会実装への課題。ダンロップと関西大学が共同で開発した「タイヤ内発電」実験など産学連携の動きから生まれるイノベーションに今後注目したい。
TENGの研究は、米中が先行し、日本は遅れをとっている。社会実装例をいち早く実現できれば、その用途の広さから、身近な再生エネルギーとして生活に普及しそうだ。
日常生活でよく起こる「静電気」こそが、TENGの原理の基礎だ。静電気から電気を取り出すことで、小さな電子機器を動かしたり、電力を蓄えたりできる。
静電気が生まれる場所ならどこでも発電できる
雨粒発電
雨粒のエネルギーを電気に変換する技術。ソーラーアレイ発電機につなぎ雨の日も継続的に電力を供給できる。清華大学深圳国際大学院のZong Li教授らの研究チームが考案した。
出典:SPRING WISE「HARVESTING ENERGY FROM RAINDROPS」
タイヤ内発電
タイヤの回転によって安定的に電力を発生させる
ダンロップと関西大学・谷弘詞教授が共同開発した。タイヤの内側に発電デバイスを取り付け、タイヤの回転で電力を発生させる仕組みだ。
出典:住友ゴム工業
床材発電
床の上を歩くことによる接触・分離の動作で静電気を発生
スイス連邦工科大学チューリッヒ校を中心とする研究チームが発表した、人が木床を歩くと発電するTENG。ためた電力でLED電球の点灯が可能に。
出典:Cell Press 「When walked on, these wooden floors harvest enough energy to turn on a lightbulb」
※TENG:「Triboelectric nanogenerator」の略称。トライボ発電、摩擦発電とも呼ばれる。
取材・文/安藤政弘