遊びや社会的な活動は犬の脳機能の維持に役立つ
犬も高齢になると脳が縮小するため、人間と同じように記憶や思考の問題に悩まされるが、遊びや他の犬と関わるなどの社会的な活動が脳機能の維持に役立つようだ。
少数のビーグルを対象にした研究で、運動をしたり、おもちゃで遊んだり、他の犬と遊んだりすることが犬の脳機能の維持に役立つことが明らかになった。米カリフォルニア大学アーバイン校のCraig Stark氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Neuroscience」に4月1日掲載された。
この研究では、アルツハイマー病の治療薬となる可能性のある2種類の薬剤(カルシニューリン阻害薬のタクロリムス、転写因子のファミリーの一つであるNFATを阻害する化合物のQ134R)を用いた研究の一環として、中年(研究開始時に6歳)のビーグル43頭(雌36頭、雄7頭)の脳の健康状態を、毎年のMRI検査により3年間追跡した。これらの犬は全て、毎日運動し、おもちゃで遊び、社会的な活動を行なった。また、雄だけのグループと雌だけのグループに分かれて毎日30分遊ぶことが許された。
その結果、加齢に伴い犬の前頭葉(思考、判断、情動のコントロール、コミュニケーション、運動などを司る部位)は急速に萎縮する一方で、尾状核(学習と記憶に重要な役割を果たす部位)の大きさは相対的に安定していることが明らかになった。
また、薬剤を投与されていたか否かにかかわりなく、全ての犬で海馬の体積が毎年約1.74%ずつ増加していることも確認された。海馬は記憶と情動に関連する脳の部位で、加齢による衰えの影響を特に受けやすい。過去の研究では、加齢に伴い海馬の体積は減少することが示されている。
研究開始時の犬の脳は標準的な大きさであったことから、研究グループは、通常の加齢に伴い海馬の体積が増加したとは考えにくく、「この増加は、社会的な相互作用、探索行動、運動、感覚刺激など、本研究で行なわれた高レベルの行動エンリッチメント(豊かで意義のあるものにすること)に起因すると考えられる」との見方を示している。研究グループは、このような活動は脳への血流量を増やし、場合によっては脳細胞を成長させる可能性も考えられると説明している。
研究グループは、犬は9歳(人間でいえば60歳前後)になると、脳の老化の兆候が現れ始めることが多いことを踏まえて、加齢に伴う犬の健康状態の変化を追跡し続ける予定であるとしている。次の追跡MRI調査は、今回の研究対象となった犬が10~11歳になったときに実施予定であり、この調査により脳内治療薬の効果についても最終的な結論が導き出される見込みであるほか、社会的活動や遊びの利点に関するさらなるエビデンスも得られるものと期待されている。
研究グループは、「中年の犬でも家族として迎え入れて愛情を注ぐことは、犬の寿命を延ばし、老犬になった際の健康に役立つ可能性がある」と話している。そして、「犬と遊ぶことは犬の脳の健康に有益なだけでなく、人間の脳の健康にも役立つ可能性がある。これは、科学的な裏付けが高まりつつあるペットを世話する際の助言として受け取っても間違いないと思われる」と付言している。(HealthDay News 2024年4月2日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.jneurosci.org/content/early/2024/03/21/JNEUROSCI.2366-23.2024
構成/DIME編集部