「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。
ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!
認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。
認知症グレーゾーンからUターンする生活習慣「5つのポイント」
■「遊びの延長」であなたの脳が変わる
認知症の手前の〝認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)の疑いあり〟の段階であれば、健康な脳にUターンすることは十分に可能です。
ただそのためには、毎日の生活習慣の見直しが必要です。
「え? 生活の見直しなんて、めんどうくさい」
「もっと簡単に、薬やサプリメントを飲んで治せないの?」
認知症グレーゾーンになっている人の〝めんどうくさい脳〟には、そんな思いもよぎるでしょう。ですが、認知症は遺伝的な因子をもつ人を除くと、日常の生活習慣が大きく影響して発症します。認知症は生活習慣病の一つなので、時間をかけて認知機能を改善し、予防していく必要があるのです。
「めんどうくさいからいいや」と思ったら、その先は認知症へまっしぐら。
ここが最後の踏ん張りどころです。
「絶対にボケてたまるか」と思って毎日小さな習慣を積み重ねていけば、まさに継続は力なり。
専門医の私でも驚くほど、目覚ましい改善が見られることがあります。
とはいえ、このあと紹介する、グレーゾーンから回復するための「生活習慣」には、ツラいことやめんどうなことはほとんどありません。
遊びの延長のような感じで、楽しみながら取り組めるものばかりです。
■キーワードは「わくわく」
認知症の予防、および認知症グレーゾーンからUターンするには、次の5つが大きなポイントとなります。
(1) 挑戦……年甲斐もないことをする
(2) 変化……普段やらない新しいことを始める
(3) 生きがい……いくつになっても夢中になれるものを見つける
(4) 孤独の回避……人と積極的に交流する
(5) 利他……自分のことより、他者のために力を尽くす
一言でいうと、「わくわく」に満ちた心豊かな毎日を送りましょう、ということです。私たちの脳の中では、わくわくすればするほど、神経伝達物質である
〇 やる気や幸福感を生み出す「ドーパミン」
〇 愛情の源となる「オキシトシン」
〇 心を癒す「セロトニン」
の分泌が活発になります。
脳を活性化する三大ホルモンと呼ばれるこれらの脳内ホルモンは、認知症の予防、ひいては認知症グレーゾーンからのUターンにも大きく寄与します。
とくに、今まで(1)~(5)に当てはまらない生活をしてきた人は、〝伸びしろ〟がより大きいので、日を追うごとに脳の変化を実感できるでしょう。
次から、「5つのポイント」について簡単に説明していきますので、ぜひトライしてみてください。
<1:挑戦>「年甲斐もない」こそ人生100年時代の生き方
「年甲斐もない」という言葉は、一般的には否定的な意味で使われますよね。
「そんな派手な格好をして年甲斐もない」とか「年甲斐もないふるまいをして恥ずかしい」など、年齢を重ねるごとに〝年相応〟であることを求められがちです。
もちろん、節度を越えた言動はNGとしても、「もう年だから」という理由でやりたいことを我慢したり、楽しいことをあきらめたりすると、脳への刺激が減って、認知症対策においては大きなマイナスとなります。
国立長寿医療研究センターが10年間にわたり、40~82歳の2205人を追跡した調査でも、「好奇心が強く、新しいことに挑戦するのが好きな人」は、言語能力、理解力、社会適応力、コミュニケーション力などの「結晶性知能」と呼ばれる知的な能力を維持できるとされています。
そもそも、年甲斐などという言葉は、人生100年時代の今、おかしいですよね。
周囲の目を気にして認知症になるより、周りが何と言おうとも、「これをやりたい」「あれをやってみたい」ということがあれば、年齢に関係なく〝挑戦〟する。それが脳と体の若さを保つ最大の秘訣です。
<2:変化>新しいことを始めたときのドキドキが脳の刺激になる
年をとるにつれ、〝変化〟にストレスに感じるようになります。
いつも同じスーパーへ行き、同じようなものを買って、同じようなものを食べている。いつも同じような色合いで、同じようなデザインの服を着ている。
そんな毎日を送っていると、脳はどんどん縮んでしまいます。
この機会に、「いつも」と違うことを少しずつ始めてみることをおすすめします。
最初は小さな一歩で構いません。いつもと違う道を通って、いつもと違うスーパーへ行ってみる。見知らぬ店内に迷いながらも、目新しい調味料を発見したり、いつもは買わない高級食材に手を出してみたり。
それだけでも、意外にわくわくするものです。