国内業界を牽引する、2大テーマパークの強みとは何か? テーマパークコンサルタントと消費文化論の研究者が熱い議論を交わした。
ニッセイ基礎研究所
廣瀨 涼さん
若者の消費行動を中心とした現代消費文化論を専門とする。著書に『タイパの経済学』(幻冬舎新書)。本人は生粋のディズニーオタク。
ツネイシLR
代表取締役副社長
清水 群さん
オリエンタルランド、ユー・エス・ジェイで働いた経験を生かし、現在は広島県の遊園地『みろくの里』の運営に携わる。
みろくの里
[住]広島県福山市藤江町638-1 [TEL]084・988・0001 [営]10:00〜17:00 ※公式HP要確認 [休]火・水 ※季節により変動あり。公式HP要確認 [料]入園料 大人1000〜1500円、子供700〜1200円
伝統のディズニー革新のUSJ
──清水さんから見た東京ディズニーリゾートの強みはどこにあるのでしょうか。
清水 テーマパークに限らず、消費者にお金を払っていただくにあたって、なぜお金を払おうと思ったか、という動機づくりが非常に大事だと思っています。東京ディズニーリゾートに関していえば、やはりディズニーというIPを使えるというのが一番の強みだと感じています。ミッキーマウスという誰もが知っているキャラクターがずっと君臨していて、新しい作品も続々と増えている。ディズニーシーにオープンする新しいエリアも、ここ10年ほどの作品がモチーフになっています。IPを使った消費者への訴求方法についても汎用性が非常に高く、ほかが真似できない特徴だといえます。
廣瀨 ディズニーのファンって、別にディズニーランドに行かなくてもつくれるんですよね。近所のデパートやスーパーのファンシーショップはもちろん、コンビニや飲み物のラベルなどあらゆるところにIPとの接点がある。アリエルや白雪姫といった昔のプリンセスもいまだにグッズ展開されている上に、他作品のプリンセス同士を組み合わせることで、時代とともに作品が埋もれるのを防いでいるのもうまいですよね。
──若い世代がディズニーを好きになる経路として、親の存在は大きいのでしょうか。
廣瀨 〝3世代ディズニー〟という言葉がここ数年で定着しているほど、世代を超えた家族全体でのコンテンツ消費は盛んになっています。特に今の親世代は『アラジン』や『リトル・マーメイド』など黄金期の作品で育っており、その影響をダイレクトに子供たちも受けている。子供に買い与える際に、自分も欲しいから買うという感覚で消費しています。
──ディズニーに比べ、USJは確固たるIPを持っていない印象です。
清水 逆にそれをうまく強みへと転じているのではないでしょうか。どのIPを今使えば本当にヒットするのか見極めないといけないため、高いマーケティング力、リサーチ力が求められるのです。加えて、導線をIPにしつつ、帰る時にはUSJそのものを好きになってもらいファンを増やすという戦略をここ10年ほど推し進めています。
──今は映画に寄せているのか、それとも幅広くコンテンツを取り込もうとしているのか、どちらに舵を切っているのでしょうか。
清水 開業10年を過ぎたあたりから、映画のテーマパークから世界最高のエンターテインメントを提供する方向にシフトしていきましたね。もともとハローキティやスヌーピーなどはいましたが、2010年に『スペース・ファンタジー・ザ・ライド』という初の完全オリジナルIPのアトラクションを造り、そこから映画に関係なく様々なIPが導入されるようになりました。
──海外でも同様の流れなのでしょうか。
清水 海外にも『スーパー・ニンテンドー・ワールド』がオープンするなど似た流れはありますが、日本ほどではありません。日本は映画を観る文化がそこまで発展しておらず、映画だけで収益を上げるのは難しいという背景があるのでしょう。
コロナ禍で見えてきたコアファン層の消費行動
──入場料が値上がりする中、オリエンタルランドは過去最高益を達成しました。
清水 コロナ禍での経験をうまく生かしたのでしょう。入場制限などで客足が大きく減少した中、それでも継続的に来園する本当にコアなファンがどれくらいいるのか。彼らの客単価や消費行動はどういったものかなど、今まで統計的な推定値でしかなく、売り上げを落としてでも欲しかったデータがコロナ禍で結果的に浮き彫りになりました。そのおかげで戦略を立てやすくなったと推察しています。
廣瀨 『ファンタジースプリングス』がオープンするにあたって、ディズニー・プレミアアクセスやグランドシャトーのように体験価値を高めるために課金を促す流れが強まっているように感じます。これは東京ディズニーリゾートでも受け入れられるのでしょうか。
清水 コロナ禍でいろいろチャレンジした結果、受け入れられるというジャッジのもと進めているのだと推測しています。最近、私も旅行に対する考え方が変わってきて、やっぱりせっかく遠出するなら失敗したくないんですよね。であれば、お金を払ってでも確実に乗れたり、体験できたりするほうを選びたいと考えるようになりました。
廣瀨 体験価値にお金を払わせるという動きは、USJのほうが早くから着手していましたよね。
清水 今でこそダイナミックプライシングになりましたが、チケットの価格推移もUSJが高い傾向にありましたしね。どちらも高付加価値化へと舵を切ったけど、マーケティングによる分析のもと判断したUSJと、コロナ禍で実際にデータを集めたディズニーと、それぞれアプローチが異なるのは興味深いです。
受動的でも楽しめるディズニー、能動的に楽しさを求めるUSJ
──今、遊園地の運営に携わっていて、改めて清水さんが感じる両テーマパークのすごさは何でしょうか。
清水 ディズニーというIPの歴史はもちろんですが、40年の歴史を持つ東京ディズニーリゾートにしかない接客やトレーニングの伝統みたいなものがあります。それが脈々と受け継がれているので、すごくいい新人さんが入ってくるんですよね。ディズニーで働こうと思う人って、絶対1回は遊びに来ているはずです。そこで働くスタッフの姿を見て、自分がディズニーで働く時の姿をイメージできるわけです。そういう伝統があるのはすばらしいと思うし、羨ましいとも思います。
──USJはどういった部分に魅力を感じますか。
清水 自由度の高さはほかにないものがありますね。私が勤めていた当時のスローガンが「スイング・ザ・バット」で、チャレンジすることを推奨する組織風土でした。それがパーク全体の雰囲気づくりにもあらわれていました。
廣瀨 特に若い世代は、その自由度に価値を見いだしているように見受けられます。IP含め様々なものが〝ごちゃ混ぜ〟だからこそ、いつ来ても新鮮だし、いろいろな遊び方を肯定してくれるような気にさせてくれます。やりたいと思うことを、お金さえ払えばできるよ、という「場」としての役割を提供している。そう考えると、USJでは能動的な消費行動のほうがより体験価値が高まるのだと思います。
──ハロウィンイベントでゾンビに襲われるためにわざわざ首飾りを買う、というのはまさに能動的な楽しみ方の好例だと思います。
廣瀨 一方で、東京ディズニーリゾートは受動的でも楽しい場所だと思います。ディズニーという世界に身を任せることで、キャストやアトラクションを通じて体験価値を得られます。そうして歴代のファンたちが培ってきた文化が重層的に重なった結果、来園者の行動は「王道」としてある程度パターン化されていると分析しています。このように、各パークの哲学やスタンスがファンの消費行動にも反映されているのもおもしろいポイントです。
取材・文/桑元康平
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