アルドは月面にいたわけではなかった
実はアルドは月面にいたわけではなく、地球上で空間コンピューティングを装着して、まるで月にいるかのような体験をしていた。このデバイスによって、月から地球を見つめるという、これまでにない視点で自分のアートを深めることができた。アルドはついに月から見た地球の美しさを絵に捉えることができたのだ。
アルドのアトリエは、1台の空間コンピューティングだけがあり、このデバイスが画家としての彼の創作における唯一の相棒であった。このミニマルな環境で、自身の抽象的な感情をデバイスのキャンバスに映し出すことに日々没頭していた。
西暦2044年。
この世界では、アルドの体験が示すように、いつでも空間コンピューティングによってフレームのない世界へと誘う魅力が待っていた。この時代のデバイスによって、仮想空間で創作活動を行うことが広まり、アルドのようなアーティストだけでなく、多様な分野の専門家たちがこの技術を活用して、現実と仮想の境界を超えた新しいワークスタイルを追求していた。
空間コンピューティングが普及した社会では、人々の生活や働き方が大きく変化したのだ。
ある人にとっては「明日、月に雨が降ったら、どこに行こうか」と、空間コンピューティングを使って空想的な旅行を考えることが心の安らぎとなっていた。
ある人にとっては、月面の美しいクレーターや地球からは見えない月の裏側、あるいは未来的な夢のような都市などが頭をよぎった。
しかし、アルドや多くの人々が本当に行きたい場所は、どこか遠くの宇宙空間ではなく、自分の心の奥深くにあるのかもしれない。それは自分の内面と向き合い、自分自身と対話する時間を持ちたいと願う、2024年の現代人と同じ気持ちだからであろう。
明日の天気予報が気になる。
月に雨が降ったら、どこに行こうか。
文/鈴森太郎(作家) 画像制作/Ino.
<参考資料>
・「Water Released from Moon」NASAゴダート宇宙センター
・「Apple Vision Pro」