パラレルミライ20XXは「SFプロトタイピング小説」です。
SFプロトタイピングとは、SFの想像力を活かして未来の技術や社会を描くことで、現実世界のイノベーションや問題解決に役立てるための手法を取り入れたサイエンスフィクションの一種です。今回は空間コンピューティングが発達した「フレームのない20年後の未来」を想定した未来社会を物語にしています。
パラレルミライ20XX「月に雨が降ったら -月面に住む画家アルド-」
これは並行する無数のパラレルな未来を実験思考する物語。
西暦2044年。
月面の小さなアトリエに住む画家アルドは、地球の風景を描くことに情熱を注いでいた。
彼の絵には独特の美しさがあるものの、アルド自身はいつも何かが足りないと感じていた。
なぜなら、月から見た地球の美しさを捉えたいと思っていたが、どうしてもその感動を絵にすることが出来なかったからだ。
そんなある日、月に雨が降ってきた。
月に降った雨は、地球上で経験するような通常の雨とは異なる。この雨は、流星体が月面に衝突することで水の分子が生まれる非常に珍しい現象であった。雨粒は小さく、ほんのりと輝くような光を放ち、月の低重力の影響でゆっくりと地表に降り注いだ。
月の雨は、地球の雨のように激しく降ることはなく、むしろ幻想的な霧のように静かに広がっていった。雨粒が月の表面に触れると、独特の煌めきを放ちながら、ゆっくりと蒸発していく様子が見られた。この光景は月の静寂な風景に神秘的な美しさを加え、アルドを魅了した。
月の空には、この雨によって生み出される繊細な光のパターンが浮かび上がり、月の暗い部分を照らし出した。この現象は、月の美しさを一層引き立てている。
アルドはすぐにキャンバスを用意し、月の雨を描き始めた。雨が月の表面を濡らし、光と影が生み出す新たな風景が眼前に広がったからだ。月の雨粒が太陽光を反射し、月のクレーターに溜まる雨水の柔らかな輝きや、雨に濡れた月の砂が放つ鉛色の光景を丁寧に描き出していった。
雨に打たれた月の様子は、まるで宝石のように輝き、鏡のように周囲の光景に反応した。
アルドはそのユニークな月の乱反射を捉えるために、様々な色の組み合わせを試みた。
月の砂の粒子が水分と反応し、太陽光によって淡い光の中に一色が浮かび上がる。その美しさは言葉では表現できないほどだった。絵の中で特に注目すべき特徴は、雨によって生まれた地形の流れが作り出す、具象と抽象の間をめぐる独特な模様にある。アルドの作品は月がどのように変化するかを示し、また、雨粒が太陽光を返しながら生まれる瞬間を、絵の中に巧みに織り交ぜた。これらの表現は、月の灰色の地表と対比して絵に奥行きと活気を与えることに成功している。
アルドの作品は月の雨がもたらす美しさと神秘性を見事に表現しており、月の雨が降り注ぐ「現実から外れた世界」へと誘うものであった。
さらに不思議なことが起こる。
アルドが自分の作品を眺めていると、キャンバスの一部から雨粒が現れ、ゆっくりと下へと滴り落ち始めた。この光景はまるで絵が生きているかのようで、息をのんだ。アルドは慎重に手を伸ばし、空中に垂れる雨粒を指で触れてみた。その瞬間、雨粒はキラリと光り、消えてなくなった。
アルドはこの不思議な世界を目の当たりにして、自分の感情や思いが絵を通じて物質化したのではないかと感じ、この現象を「月の涙」と名付けた。
「月の涙」は時間が経つにつれて絵から落ちる雨粒の数が増え、まるで絵が自らの感情を表現しているかのようだった。
アルドが体験した「月の涙」は、それ以降のアルドの作品を新たな次元へと連れていき、キャンバスから滴り落ちる雨粒は、まるで感情や思いを具現化するかのように、彼の内面と外の世界をつなげてくれた。