主原料は芋なのに、なぜか果実感が漂う「香り系焼酎」の人気が高まっている。そのフルーティな香り、爽やかな飲み口に、「これが芋焼酎!?」と驚く人続出。
これまで焼酎といえば、居酒屋でクーッと一杯のイメージが強いかもしれないが、和洋中問わないペアリングの楽しみが広がっている。
まるで青リンゴな焼酎も。大手にも広がる「香り系」
前回、濱田酒造の「だいやめ」、国分酒造の「flamingo orange(フラミンゴオレンジ)」を紹介したが、香りや果実感を打ち出した製品は、大手焼酎メーカーにも広がっている。
トップメーカーの霧島酒造(宮崎県都城市)が2023年2月、マスカットやみかんを思わせる「KIRISHIMA No.8」を発売した。商品名は、霧島酒造で育種したサツマイモ「霧島8(キリシマエイト)」にちなんでいる。
「KIRISHIMA No.8」アルコール分:25%/490ml/希望小売価格:1,155円(税込)。
ラベルもボトルも従来の焼酎とは一線を画す。
上の画像からもわかるように、キリッと冷やしてグラスに注ぎ、アペリティフと合わせるというシャンパンのような楽しみ方を提案している。
霧島酒造は「KIRISHIMA No.8」発売の3年前、2020年に「茜霧島」という本格焼酎を発売している。それも桃のような香りの十分フルーティな焼酎だったのが、「KIRISHIMA No.8」は、それとはボトルやラベルのデザイン、ネーミング、飲み方の提案がガラリと異なる。
また、本格焼酎「さつま白波」で知られる薩摩酒造((鹿児島県枕崎市)は2023年8月、まるで青リンゴのような香りをもった「彩響」(あやひびき)の先行販売を首都圏で始めた。
こちらは日本酒の製造に使われる清酒酵母を採用し、低温発酵、減圧蒸留により、青リンゴのような爽やかさと果実感を実現している。
「彩響(あやひびき)」アルコール分:25%/900ml/参考小売価格 :1,397円(税込)/販売地域(先行販売):東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県
昨年9月に六本木で開催したポップアップイベントで「彩響」を出品、その際、試飲した人の96%から好評を得て、発売に至っている。東京の中でも超都心でのマーケティングリサーチを生かした商品開発だ。
どんな料理と合わせて飲むかが楽しみになる酒に
「彩響」の発売直前に、東京・渋谷の「炭焼居酒屋IGOR COSY渋谷本店」で試飲会が開かれた。居酒屋といっても、和洋中にフレンチの技が持ち味の若者に人気の酒場。この選択からも、若い人にアピールしたいというコンセプトが明確だ。
注目したいのは料理とのペアリングだ。「IGOR COSY」とのコラボ開催ということで、店長の山田敬一朗さんが「彩響」に合わせたメニューを披露した。
「炭焼居酒屋IGOR COSY渋谷本店」では、6月中旬まで彩響×IGOR COSYコラボレーション企画としてペアリングメニューを提供。「牡蠣大根・ディル風味」「鶏胸肉のガランティーヌ・蕗味噌」「雲丹焼売ライムリーフの香り・春菊酢醤油」の3品。
「芋焼酎特有のクセのない、吟醸酒のような華やかな香りで、まだ本格焼酎を飲んだことのない方にも、焼酎の入り口としてピッタリだと思います」と、山田店長は「彩響』の印象を話す。「当店の特徴でもあるスパイシーさを意識してメニューづくりを考えました」
牡蠣のダシ、鶏肉の脂、雲丹のうま味。そこにハーブのディル、蕗味噌、ライムリーフなど、スパイシーな風味が微妙なアクセントを添えている。
さらに、ミントの葉を使ったモヒートスタイルのカクテルの提案もされた。
ミントとライムを使ったカクテル「モヒート」風にアレンジして焼売と合わせる。
さまざまなアレンジが楽しめるカクテルはオーセンティックなバーにも合う。どちらかというと若い人を意識した販促が目立つ中、酒好きの大人にもキン!と来る一杯が出来るのではないだろうか。
焼酎ベースのカクテルは多くはないだけに、ヒットが生まれる可能性もある。
薩摩酒造のマーケティング部の本坊和久さんは、既存の本格焼酎との違いを、「芋焼酎に合う料理というと、やはり九州の料理、味の濃い料理というイメージが強いのではないかと思います。しかし今回IGOR COSYさんにご提案いただいた料理は、『彩響』の香りや爽快な飲み口と、とてもよく合っています。繊細な素材とも合わせて楽しんでいただけるお酒だと思います」と、焼酎とペアリングの可能性の広がりに期待を寄せる。
「香り系焼酎」の代表格「だいやめ〜DAIYAME〜」の濱田酒造の脇元信一さんは料理のペアリングについて、「焼酎には500年もの歴史があります。その分、和食のイメージが強いかもしれませんが、パスタや麻婆豆腐、唐揚げなど味のしっかりした料理にもよく合います。炭酸割りで食中酒として楽しんでいただける焼酎です。食事だけでなく、甘さひかえめのデザートにも合いますね」と、食中酒からデザート酒までのテリトリーの広さをアピールする。SNSにはチョコレートと合わせた画像も投稿されている。
「flamingo orange(フラミンゴオレンジ)」の国分酒造の笹山護さんは、「本格焼酎の香りは香料ではなく、原料由来で生まれてきます。主原料サツマイモの貯蔵方法や品種、酵母など、たゆまぬ研究が続いています。伝統的な味わいだけでなく新しい可能性を秘めている酒です」と語る。
日本固有の蒸留酒、焼酎。その香りは、今後さらにフルーティに爽やかに漂ってくるのではないだろうか。脇元さん、笹山さんともに「チーズにも合いますよ」と言うので、どんなチーズが合うか、いろいろ試してみると楽しそうだ。
取材・文/佐藤恵菜