愛車という言葉がある。大学生の時に中古のカリーナを手に入れて以来、7台の車を乗り継いだ。いずれも所有中は愛車だが、買い替える時には全て売ってしまった。1台の車をうん十年乗り続けているケースなどを除けば、ほとんどの人が僕と同様に愛車を売り払ってきたはずだ。よって愛車の“愛”は、愛妻、愛息、愛娘、愛犬の“愛”より薄い“愛”だな、なんて思ったりする。本稿とは無関係の書き出しになった。
気に入って購入し、気に入って乗り続けてきた愛車ながら、5~6年も経つと買い替えたくなり買い替える。その繰り返しだったが、6年ほど前から車を持たない生活になった。今や前期高齢者の僕には、“買い替え欲”は湧かない。と思っていたが、人間(いや、僕特有か?)の欲とは恐ろしいものだ。2015年に購入して以来愛聴してきたスピーカー、LINNのAKUBARIKを買い替えたくなってしまった。音には何の不満もない。欲の原因その1は、推定インテリア的に見飽きたから。その2というか最大の原因は、さる理由で購入資金ができたからだ。
音楽/オーディオライターの岩田由記夫さんのおすすめは?
僕は空前のオーディオ・ブームの時に学生時代を過ごし、まだまだ続いていたオーディオ黄金時代の1980年代前半、『FMレコパル』編集部に在籍した。その時期に知り合った音楽/オーディオライターの岩田由記夫さんは、以降、僕のオーディオとロックの師匠だ。その岩田さんは2024年新年早々に万馬券を2つ的中させて思わぬお金が入り、近年力を注いでいるネットワークオーディオの充実に使うという。1mで30万円級という電源ケーブルを使う天井人だけに、オーディオ・システム全体の価格は8桁級だ。
岩田邸にあるJBLのC36Viscout。聴かせてもらったが、破壊的にヘヴィな音でぶっ飛んだ。
このスペース(ラックとドアの間)に左右49cmのスピーカーは置けない。
万馬券ではないが、僕にも資金ができた。岩田さんにスピーカーの買い替えを相談すると、「最近中古で買った50年代のJBL、C36Viscountは、斎藤君のように70年代ロックしか聴かない人には絶対のお勧め。僕が死んだら譲るから、それまで待ちなよ」と有り難いアドバイス。だが有り難いには有り難いが、73歳の岩田さんが亡くなるのを楽しみに待つのも如何なものかと逡巡する。すると幸か不幸か、JBLの横幅は49cmあり、我が家のAVエリアに置くとリビングのドアが閉まらないことが判明し、丁重にお断りできた。
数日後、岩田さんから電話があり「カナダのパラダイムというメーカーのペルソナ3Fはロックにいいよ。これにしたら」と勧められる。実はこの機種、以前から興味があった。というのも、僕にもネットワークオーディオの世界に入ることを勧める岩田さんに、「『ステレオ』誌2023年12月号に特集があるから読んでみて」と言われて買った同誌に、ペルソナ3Fの広告と試聴記が載っていたからだ。
その端正でモダンな筐体デザインに惹かれ、インポーター・サイトを見ると……。『ステレオ』誌の写真は広告も記事もブラック・ボディだったが5種類のカラーリングがあり、中でもブルーのキャビネットとシルバーのバッフルの組み合わせに胸が高鳴った。偶然にも岩田さんに相談する前にあれこれ調べて惹かれていた、B&Wの805D4Signetureのミッドナイトブルー・メタリックのカラーリングに似ているのだ。B&Wは聴いていないが、インテリアとしてのカラーならこれに限ると思うほど気に入っていた。