ADHD治療薬で早期死亡リスク低下
注意欠如・多動症(ADHD)と診断された患者のうち、薬物療法を開始した患者では、薬物療法を受けなかった患者と比べて治療開始から2年間の死亡リスクが大幅に低いことが、カロリンスカ研究所(スウェーデン)のZheng Chang氏らの研究で示された。研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」3月12日号に掲載された。この研究では、ADHD治療薬の使用が、特に事故や偶発的な中毒による死亡リスクの低下に大きく寄与することも示された一方で、病死などの「自然死」のリスク上昇は示されなかった。
Chang氏らは、リタリンやコンサータ(いずれも一般名メチルフェニデート塩酸塩)などのADHD治療薬は、「ADHDやその他の併存する精神疾患の中核症状を軽減し、衝動性のコントロールや意思決定の能力を改善することで患者の早期死亡リスクを低下させる可能性がある」と結論付けている。そして、「衝動性のコントロールの向上や健全な意思決定は、ADHD患者を致死的な事故や薬物の過剰摂取といった悲劇から守ることにつながる」と付言している。
Chang氏らによると、ADHD患者は「外因死(事故、自殺、意図しない薬物の過剰摂取など病気ではない原因による死亡)」のリスクが2倍高いことが先行研究で示されている。しかし、ADHD治療薬の使用を開始するかどうかで悩む人は多い。そこで今回の研究では、治療薬の使用によりADHD患者での死亡リスクが低下するのかどうかが検討された。
まず、複数のスウェーデンの国民健康登録からデータを収集し、それに基づき6歳時から64歳時までにADHDと診断された14万8,578人(女性41.3%、ベースライン時の年齢中央値17.4歳)のスウェーデン人の病歴に関する情報を集めた。ADHDと診断されてから3カ月以内にADHD治療薬の使用を開始していた患者の割合は56.7%(8万4,204人)で、残る43.3%(6万4,296人)は同期間に薬物治療が開始されていなかった(残る78人は死亡または移住)。
ADHDの診断後2年間の健康アウトカムを調べた結果、ADHD治療薬の使用が開始された患者では、薬物治療が開始されなかった患者と比べて全死亡リスクが21%低いことが示された(ハザード比0.79、95%信頼区間0.70〜0.88)。また、ADHD治療薬の使用による効果は特に外因死に対して高く、使用開始により同リスクは25%有意に低下していた(同0.75、0.66〜0.86)。これに対し、自然死(心疾患やがんなどの身体疾患による死亡)のリスク低下は外因死よりも低い14%で、統計学的に有意ではなかった(同0.86、0.71〜1.05)が、ADHD治療薬のような中枢神経刺激薬が心臓に与える影響について懸念を持つ人もいるため、この結果は心強いものであった。さらに、外因死のリスク低下に関しては、意図しない薬物の過剰摂取の回避による寄与が大きく、ADHD治療薬を使用していた患者では、使用していなかった患者に比べて中毒事故による死亡のリスクが53%低いことも示された。
この点についてChang氏らは、「ADHD治療薬は気分障害や不安障害、物質使用障害など他の精神疾患の発症予防にも有用であることから、納得できる結果だ」と述べている。また、「ADHD治療薬が事故や物質使用、犯罪のリスク低下と関連していることを示すエビデンスもあった。これらが外因死の発生率低下につながった可能性がある」と付け加えている。
なお、今回の研究では、診断から2年後までに得られる健康上の有益性に主眼が置かれたが、外因死リスクの有意な低下は診断から5年後も維持されていた(11%のリスク低下)。Chang氏はカロリンスカ研究所のニュースリリースの中で、「今後、この研究で認められた効果が長期にわたって持続するかどうかを明らかにすることが重要だ」と述べるとともに、「まだ特定されていない長期的な薬物治療に関連する副作用があれば、それらを明らかにしたい」としている。(HealthDay News 2024年3月12日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2816084
Press Release
https://news.ki.se/adhd-medication-linked-to-reduced-mortality
構成/DIME編集部