■連載/石野純也のガチレビュー
ワイモバイルが、フォルダブルスマホの価格破壊とも言える端末を発売した。ZTE製の「Libero Flip」が、それだ。同モデルは、縦折りが可能なフォルダブルモデルながら、本体価格はわずか6万3000円。新規契約やMNPで割引が適用されると、その価格は3万9800円まで下がり、わずかながら4万円を下回る。端末の返却前提で実質価格を抑えているモデルはあるが、それを加味しないでこの価格を実現したのは驚異的だ。
しかもこの端末、日本向けのカスタマイズもしっかり施されている。決済機能として、おサイフケータイに対応。安価なグローバルモデルをそのまま日本に持ってきたというわけではなく、きちんと市場に合わせた機能を搭載しながら、この価格を実現している。他社はもちろん、メインブランドのソフトバンクでもここまで価格的なインパクトの強いフォルダブル端末は存在しない。
一般的なフォルダブルスマホは、10万円以上のものがほとんど。1年後なり2年後なりの下取りを前提に価格を抑えられるようにはなっているが、Libero Flipはそもそもの本体価格が安い。ここまで安いと、逆に安物買いの銭失いになってしまわないか、不安を覚える向きもありそうだ。そこで今回は、Libero Flipの実機を使い、その実力をチェックした。
フォルダブルスマホでありながら、6万円台の衝撃プライスを打ち出したLibero Flip
フォルダブルの基本は踏襲、円形ディスプレイで差別化を図る
Libero Flipは、6.9インチのディスプレイを縦方向に折り曲げられるフォルダブルスマホ。閉じた時でも情報を確認しやすいよう、1.43インチと小型のサブディスプレイも搭載されている。開いた時の高さは170mmだが、閉じると88mmになり、バッグやポケットに収納しやすくなる。この点は、ほかの縦折りフォルダブルスマホと同じ。ディスプレイが重なるぶん、閉じた時の厚みは増してしまう。
閉じると大画面、開くとコンパクトになる点は、ほかの縦折りフォルダブルと同じ
一方で、よりハイエンドな「Galaxy Z Flip5」と比べて、やや厚みがある。スペック上の違いはわずか0.4mmだが、エッジの丸みが少ないためか、手に取った時にそれを感じやすい印象だ。背面の素材はガラスだが、サラッとした手触りで指紋がつきにくい。光沢感があり、金属のようにも見える。ただし、重量は214gあり、187gのGalaxy Z Flip5や、189gの「razr 40s」よりズッシリした重みを感じやすい。
閉じた時の厚みは15.8mm。エッジのカーブが少ないためか、印象としてやや厚く感じる
先に挙げたGalaxy Z Flip5や、モトローラのハイエンドモデルである「razr 40 ultra」は、サブディスプレイが大型だ。これに対し、Libero Flipの円形ディスプレイは1.43インチで、情報量は限定される。サブディスプレイもタッチ操作に対応しているため、通知を確認したり、ボイスレコーダーやタイマーなどの対応アプリを使ったりはできるものの、閉じたままでの用途は多くない。
ただし、同じく小型のサブディスプレイを搭載したrazr 40sと比べると、ディスプレイが見やすい。これは、円形で上下と左右の比率が同じためだろう。razr 40sは、かなり横長になってしまっていたため、カメラを起動した際に画角を調整しづらいとなどのデメリットがあった。これに対し、Libero Flipのそれは、縦横が均等なため見やすいのと同時に操作がしやすい。
ディスプレイは円形で、視認性や操作性が高い。ただし、利用できるアプリはプリインストールのものに限定される
円形のディスプレイは主張が強く、デザイン的なアクセントにもなっている。背面全体がディスプレイのフォルダブルスマホと比べると、当然、使い勝手は一段劣るが、小さなディスプレイの割には健闘している印象だ。閉じた時のすき間も最小限に抑えられており、縦折りフォルダブルスマホとしての基本はクリアしている。安いからと言って、デザインや機構などで手を抜いているわけではないことがわかる。
フォルダブルならではの使い方も実現、対応アプリの利便性は高い
単にコンパクトに折りたためるだけでなく、フォルダブルならではの使い方もしっかりサポートしている。代表的なのは、半開きにした状態での使用だ。単純に机やテーブルの上に置けるだけでなく、一部のアプリは状態を検知し、ユーザーインターフェイスも自動的に切り替わる。例えば、カメラアプリの場合、半開きにすると下半分が操作パネル、上半分がファインダーになり、置いたままでの撮影がしやすくなる。
撮影時にサブディスプレイを有効にすることも可能だ。テーブルの上などに置いて画角を調整したあと、その場所に行って手のひらをかざしたり、Vサインを出すと自動でシャッターが切れる。こうした設定をしておけば、自分が入る集合写真も撮りやすい。
グーグル純正の会議アプリ「Google Meet」も同様に、上半分に映像、下半分に操作パネルが表示される仕様だ。通常のスマホでオンライン会議に参加しようとすると、手に持ったまま自分を映さなければならないが、Libero Flipであれば、パソコンなどと同様、机やテーブルに置いたままで済ませることが可能だ。こちらの方が操作もしやすく、使い勝手がいい。
YouTubeでは、YouTube Premiumに加入している場合、画面が分割された際に「Premiumコントロール」という操作パネルが現れる。このパネルでは、動画にかぶることなく再生・停止や10秒送りなどができ、再生速度の変更なども行える。画面が半分になってしまうため、動画の迫力は落ちてしまうが、本体を持っている必要がなくなり、長時間の視聴がしやすい。アプリ側がフォルダブルに対応することで、よりこの端末の価値が高まるというわけだ。
YouTube Premiumでは、コントロールパネルを画面下部に配置可能。動画の迫力は減ってしまうが、操作はしやすい
もっとも、例えばGalaxy Z Flip5にあったような、対応、非対応を問わず、強制的に画面を分割表示にするような機能は存在しない。その意味で、フォルダブルという機構に対するZTEの独自カスタマイズは少なめと言っていいだろう。
また、サブディスプレイのカスタマイズ項目も、やや少ない。壁紙の変更や時計の変更などはできるが、ここに表示できるアプリは6種類のみ。減らすことは可能だが、追加には対応していない。常時表示も不可能なため、通知などを確認しようとすると、都度サブディスプレイをダブルタップする必要もある。こうした部分には、改善の余地があるように感じた。
レスポンス良好でカメラ画質もいいが、トレードオフの部分も
パフォーマンスは比較的高く、操作感は良好だ。チップセットにはクアルコムの「Snapdragon 7 Gen 1」を採用している。これは、2022年に発表されたミッドレンジ向けのチップセットで、2023年に登場したスマホの一部が採用していた。ある意味、型落ちのチップセットではあるが、性能はまずまず。ソフトバンクが取り扱っているモトローラのrazr 40sも、同じSnapdragon 7 Gen 1を搭載している。
5Gや物理SIMとeSIMのデュアルSIMにも対応しており、通信性能も十分だ。ただし、ストレージが128GBと少なめ。OSやプリインストールアプリで23GBほど取られているため、ユーザーが使えるのは104GB強しかない。サイズの大きなゲームアプリをインストールしたり、写真や動画などを多数撮っていると、容量不足になる心配はある。外部メモリにも非対応なため、クラウドを頼るしかない点がやや気になるポイント。メモリの容量も6GBと、上位のミッドレンジモデルには見劣りする部分だ。
また、カメラはデュアルカメラだが、基本的に撮影に使うのはメインの5000万画素センサーのみ。もう1つの200万画素センサーは、ポートレートモードなどに使う深度測定用のものになる。最近のスマホは、デュアルカメラが当たり前。ミッドレンジモデルでも、望遠に対応したトリプルカメラ仕様になっていることがある。コストダウンを図りやすい部分とは言え、広い画角で撮れる超広角がないのは少々残念だ。
カメラはデュアルカメラだが、片方は200万画素の深度測定用。実質的にはシングルカメラと言える
とは言え、メインカメラの画質は悪くない。ピクセルビニングに対応しているため、やや暗めの室内でもノイズは少なく、AIの補正によって色鮮やかな写真が撮れる。少々彩度が高すぎるきらいはあるが、映え重視の絵作りと言えるだろう。ピクセルビニングを解除し、5000万画素をフルに使った撮影も楽しめる。「プロショット」と呼ばれる手動撮影にも対応している。
おもしろいのは、画角を26mmと50mmから選択できるところ。50mmで撮った際にデジタルズーム特有の劣化が見られないため、おそらく、5000万画素から切り出してズームしているのだろう。Libero Flipでは、50mmを「標準」と呼んでいるが、これはレンズ交換式カメラで一般的な用語。50mmは、肉眼で被写体を見た時の画角に近いとされている。26mmを起点したズーム倍率ではなく、50mmという画角で表していることからもわかるように、この部分だけ妙に本格的だ。
シングルカメラながら、画角は26mmと50mmから選択できる
50mmは肉眼に近い画角で、特定の被写体に寄って撮りたい時に重宝する画角だ
このように、ストレージやカメラなどではコストダウンの跡がはっきり見えるLibero Flipだが、それを差し引いても、6万3000円という価格はやはり衝撃的。フォルダブルスマホに興味はあった一方で、その価格で二の足を踏んでいた人にはかなりオススメできる1台と言えるだろう。おサイフケータイにも対応しているため、普段使いにもいい端末で、ワイモバイルの主力モデルになりそうだ。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★★
生体認証 ★★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。