キャンプ場や屋外バーベキュー場に来れば自ずから活動的になるというものだが、そうしたグループの中でも特に率先して活躍している人物がいる。ファミリーにおいてそれはやはり〝お父さん〟であるケースが多そうだが――。
男性が〝罰ゲーム〟を引き受ける時とは?
楽しみや充足感のためにスポーツやトレーニング、アウトドア活動に取り組む場合もあるが、必要に迫られない限りは報われない退屈な肉体労働は御免こうむりたいものだ。
ギリシャ神話の登場人物の一人、シーシュポスは神に命じられて大きな岩を山頂まで運ぶ労働を強いられるのだが、額に汗してようやく岩を山頂まで運ぶと神はその岩を転げ落としてしまう。彼は再び山のふもとに降りて岩を運び上げるのだが達成後の顛末は同じで、それを延々と繰り返すことになる悲劇が描かれている。
まさに〝罰ゲーム〟でしかなく、もしもこのシューシュポスの苦役を現場で目の当たりにしたとすれば、憐れみや痛々しさすら感じるかもしれない。もちろん自分にそんなことが課せられるとすれば悪夢でしかない。
しかし興味深いことに、男性においてむしろ自発的に〝罰ゲーム〟を引き受けるケースがあることが最新の研究で報告されている。
東洋大学の伊覇龍信氏が2023年12月に「Evolutionary Psychological Science」で発表した研究では、個人の選択は男女間の身体的差異と心理的差異に影響されており、その結果としてキャリアパスと機会の形成に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。つまり男女の性差は働き方に影響を及ぼしているというのである。
研究では14カ国における18歳から110歳までの幅広い年齢層の5279人(男性2608名、女性2671名)の多様なサンプルを収集している。
参加者はオンライン実験に参加し、異性または同性とのペアにランダムに割り当てられた。彼らはキャンプ旅行のシナリオを提示され、2つの作業タスクのどちらかの選択を求められた。タスクAには身体的負担が大きくしかもケガをする可能性のある作業が含まれ、タスクBは主に負担が少なく安全な作業であった。
収集したデータを分析した結果、男性は異性のパートナーとペアになった場合、女性に比べてより危険で肉体的に負担のかかる作業(タスクA)を選択する傾向が顕著に高いことが浮き彫りになった。つまり女性とペアになった男性は、自発的に辛く危険なタスクを引き受けていたのである。
キャンプ場で〝お父さん〟たちが張り切っているのも頷けるというものだ。そしてその労苦は決して当人にとっては“罰ゲーム”ではなく充足感が得られる行動なのである。
この傾向は男性が配偶者獲得戦略の一環としてより危険な行動を示す可能性があることを示唆する進化人類学の理論と一致するものである。さらに注目すべきなのはこの性別特有の選択パターンはさまざまな文化(14ヵ国)にわたって一貫しており、これらの行動傾向のユニバーサルな側面が強調されることになった。
強いられていなくとも男女は自然に分業する傾向があることが示されたことになり、この研究結果は男女の役割分担の根深い指向性を示唆しているといえるだろう。