3. 生前贈与のメリットと注意点
生前贈与のメリットは、財産を早い段階から活用してもらえる点です。
特に、住居費・生活費・教育費などにお金がかかりがちな20代から40代程度の子どもへの生前贈与は、そのメリットを大きく活かすことができるでしょう。
その反面、生前贈与には贈与税が課される点に注意が必要です。原則として、毎年の贈与額から110万円を控除した金額に対して、10%から55%の贈与税が課されます(=暦年課税)。
ただし、父母から子に対する贈与や、祖父母から孫に対する贈与などについては「相続時精算課税」を選択できることがあります。相続時精算課税を選択すれば、通算2500万円まで贈与税が非課税となります(相続時に相続税が課されます)。
暦年課税と相続時精算課税を比較して、有利と思われる方を選択しましょう。
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
参考:No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁
また、一定期間内に行われた生前贈与は、遺留分侵害額請求※の対象となります。
※遺留分侵害額請求:相続分が遺留分(=相続人の最低保障額)を下回った場合に、差額に相当する金銭の支払いを求める請求
相続人に対する贈与は相続開始前10年間、その他の者に対する贈与は相続開始前1年間に行われたものが、遺留分侵害額請求の対象です。
一部の人だけを生前贈与によって優遇すると、相続開始後のトラブルを誘発しかねないので注意しましょう。
4. 遺言書のメリットと注意点
遺言書のメリットは、遺産の分け方をあらかじめ決めておける点です。遺産分割の必要がなくなるため、相続トラブルの火種をなくすことができます。
また、家族に対する最後のメッセージを記すことができる点も、遺言書のメリットといえるでしょう。遺産の分け方だけでなく、感謝の気持ちを表す文章なども記載できます。
その一方で、遺言書は形式不備によって無効となってしまうことがよくあります。遺言無効のリスクを避けるには、公証役場で公正証書遺言を作成するのが安心です。
また、遺言による贈与(=遺贈)も遺留分侵害額請求の対象なので、偏った内容の遺言書を作成する場合はトラブルのリスクに気を付けましょう。
5. 家族信託のメリットと注意点
家族信託のメリットは、活用方法が非常に幅広い点です。信託契約で細かくルールを定めることができるので、ご自身の希望に沿った遺産承継を実現しやすくなります。
その反面、家族信託の設定を弁護士や司法書士に依頼する場合には、比較的高額の費用が掛かることが多いです。生前贈与や遺言書に比べると、コストが高くつきやすい点に注意しましょう。
また、財産の管理を任せる家族など(=受託者)が、信託財産を横領するケースも稀に見られます。受託者選びは慎重に行い、信頼できる人を見極めて依頼しましょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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