ビジネスマン社会にも通じるベテラン力の活用法
ビジネスマン社会でもそうだが、リーダーというのは若手に多くの仕事を与えて、成長を促そうとするもの。しかしながら、時に若者だけは解決しきれない問題も出てくる。
そこで重要になるのが「ベテラン力」だ。ただ、その年長者が全てを自分だけでやってしまったら、若い世代は仕事を奪われるし、やる気を失う。そうならないように、年長者の経験を示しつつ、若手の背中を押せる人材でなければ組織のためにならない。つねに若い選手と同じ目線で高みを追い求められる長友なら、若手のやる気やモチベーションを削ぐようなことはまずない。その人間性とマインド、強靭な精神力を指揮官も分かっているからこそ、「今はこの男に来てもらうのがベスト」という判断になったに違いない。
加えて言うと、今回は中止となったが未知なる環境の平壌でのアウェー戦も控えている。そこで平常心を保つためにも、百戦錬磨の経験値を持つメンタルモンスターが必要なのだろう。
ウォーミングアップ時も周りへの声掛けを欠かさなかった(筆者撮影)
北朝鮮戦に向けた代表の活動は3月18日からスタートしたが、初日のトレーニングから長友は声を出して明るい雰囲気を作った。カタールW杯以来の再会となった田中碧(デュッセルドルフ)のパスがズレると「碧、愛がなくなったな」と冗談交じりに言い、東福岡高校の後輩に当たる毎熊晟矢(C大阪)にも「おい、毎熊しっかりしろ」と鼓舞。久保建英(レアル・ソシエダ)も話しかけるたびに笑顔をのぞかせる。時には名波浩・前田遼一両コーチをいじるような場面も見受けられ、自然と場が和み、ポジティブな空気が生まれていったのだ。
「まだみんな揃ってないから、雰囲気っていうのは感じづらい部分があるけど、僕自身は代表が久しぶりなんで、今日も4時か5時に目が覚めて、細胞たちがうずき始めて、ちょっと落ち着けと(笑)。一旦落ち着けと細胞たちに言ったんですけど、そのくらいもう僕はもう楽しくて仕方がない。そのマインドはたぶんみんなに伝わってると思うんですよね。
若い選手、新しい選手はちょっと僕の熱に引いてる感じ(苦笑)。最初は多少、距離を取られる感じもありましたけど、練習をしてまたちょっと心が近づいたなと。ここからまたグッと入ってくるかなと思います」と本人も”つかみはOK”だったようだ。
久保建英(右)も長友がいるだけで笑顔が多くなっていた(筆者撮影)
数々の「長友語録」でメディアを圧倒。大谷翔平にも挑戦状
「自分は20代の時のコンディションを感じている」
「今年、38になるんですけど、年齢はただの数字」
「エネルギーがあり余ってる」
「勝つチームの雰囲気を過去4回のW杯から分かってる。自分の中には根拠がある」
こういった長友語録が次々と飛び出し、数多く集まった報道陣も圧倒されていたが、本当にこの男の影響力は絶大である。
そのうえで、彼は同じ21日にメジャーリーグ2024の開幕戦・パドレス戦を迎えるドジャースの大谷翔平に対しても「テレビをつけると大谷さんのニュース、野球のニュースばかり。サッカーももっと取り上げてほしい」とバチバチに意識。「そのために僕らは結果を出さなきゃいけない。サッカー日本代表が結果を出せるように、自分自身も存在感を出せるように頑張ります」と自らアピールしてみせたのだ。
アジアカップで敗退した際、冨安健洋が「熱量が足りない」と発言したが、長友がいればそんな問題は起きる心配は一切ない。田中碧も「あの熱量はホントにすごい」と目を丸くした。昭和世代の暑苦しさと泥臭さがZ世代中心の森保ジャパンをどこまで変えられたのか。彼らは再び右肩上がりの軌跡を描くことができるのか。
長友の「ベテラン力」の成果に大いに期待したいものである。
体を張ったスライディングでチームを盛り上げる長友(筆者撮影)
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。