■連載/阿部純子のトレンド探検隊
共に過ごした大切な推し活グッズ「ぬい」を供養・お焚き上げ
2011年より人形供養を行ってきた「メモリアルアートの大野屋」が、初となる「ぬい供養祭」を開催した。
昨今、アイドルやキャラクターを通じてコンテンツを応援する「推し活」が広く一般化されているが、推し活に欠かせないアイテムのひとつが、推しのキャラクターやアイドルをデフォルメした「ぬい」。
ぬいは一緒に旅行をしたり、記念撮影をしたり、推しのライブ、映画館に連れて行ったりと、共に時を過ごす、持ち主にとっては推しへの愛が込められた特別なものだ。
引っ越しや断捨離、ジャンル変えなどの事情からぬいを処分しなくてはいけない場合、「捨てるのは忍びない」という持ち主の葛藤もあり、こうした思いを汲んだ「ぬい供養」が実現した。
「ぬい供養祭」にあたって、開催場所の「フューネラルリビング小平」近隣の地域を中心に、約70組、700体前後のぬい、ぬいぐるみ、フィギュア、人形、アクリルスタンドが寄せられた。
一般に行われる人形供養では、ひな人形や五月人形などを中心に日本人形が大半を占めているが、「ぬい供養祭」には、キャラクターやアイドルのぬい、動物のぬいぐるみ、フィギュアなど多種多様なぬいぐるみ、人形が持ち込まれた。
供養祭に参列した10組の持ち主たちも、それぞれに思い出の詰まったぬいを祭壇に供えた。
ユネスコ世界文化遺産に登録されている、法相宗大本山 奈良薬師寺の僧侶、後藤信行師による法要が営なまれ、参列者は神妙な面持ちで、読経を聴き焼香を行い、ぬいへの感謝の気持ちを表した。法要の後、導師による講話にも参列者は静かに耳を傾けた。
「今日はぬいぐるみのお葬式じゃありません。今まで一緒にいてくれて心の支えになってくれたことを感謝する日です。お葬式だったら私は来ていません。薬師寺には檀家さんはおらず、お墓も葬儀もありません。昔から心の勉強をする学校として続いており、ご先祖様は大切にしてくださいと説いているのです。
時代が移れば、みなさんもやがて子孫の立場から先祖様になっていきます。子孫の世代に向けて自分が良い先祖になれるかどうかなど普段は考えたことがないと思いますが、この機会に少しお考えいただければと思います。
ネットでぬいぐるみの処分の仕方を調べたところ、一番多く出てきたのがゴミ袋に入れて燃えないごみの日に捨てるというもの。それは違うのではないかと思いました。
多くの方がごみとして出してしまうぬいぐるみですが、心のこもった大切なものだったのでそんなことはしたくない、しっかりとご供養をして感謝の気持ちと共にお見送りしたいというお気持ちで、今日、こうしてみなさんはご供養に参列されました。
ぬいぐるみたちの魂がどこに行くのか、それは誰にもわかりません。でもこれらの魂が次の世代の人たちの遊び相手や話し相手になっていくのではないかと思いを馳せ、ものを粗末にせず、感謝の気持ちを持つ心を大切にしていただきたいと思います。
日本では、人形供養、針供養、刃物供養、写真供養など全国で営まれておりますが、こうした『もの』に感謝をしてお見送りする風習は他の国ではほとんどありません。大切に使ってきたものに感謝の気持ちを表す、日本の文化だと思います。
しかし、今の日本にはこうした気持ちが無くなりつつあるのではと思います。私たちは食事の時には、喜びと感謝と敬いの心との三つを必ず表してからいただきます。食事以外のすべてのものに対しても同様で、そうした心が薄れている日本の中で、みなさんにはぜひそういう心をお持ちいただきながら、日々の御精進をお願いしたいと思います」(後藤信行師)
参列者に話を聞くと、「人の顔をしているぬいやフィギュアを、そのままごみ袋に入れるのは忍びない」「いつも一緒にいるぬいはキレイな状態ではないので、フリマアプリにも出しにくい」「推しは続いていても、壊れてしまったときに、どうやって処分していいいか迷っていた」など、旅行、ライブや映画、外食の時も一緒に連れて行ったぬいを、ごみとして処分することに良心の呵責を覚えていたという人が多かった。
会場には、ぬいと記念撮影ができるフォトスポットも用意され、推しの最後の写真を撮る人も。
「ぬい供養祭」を開催した、メモリアルアートの大野屋 広報担当の横田慧美氏はこう話す。
「供養というのはとても日本的な考え方で、文化でもありますが、若い方にとってはあまりなじみのないものです。当社のお客様はご高齢の方がメインですので、今回は“推し活”に絡めて、若い世代の方にも供養について知っていただきたいという思いがありました。
まだ確定はしていませんが、10年に渡り実施している人形供養と同様に、ぬい供養も継続していきたいと考えています」
【AJの読み】仲間であり友でもあった「ぬい」を見送る会
ひな人形も五月人形も、子どもの健やかな成長を願い、厄や穢れを人形に身代わりになってもらう意味合いもあり、おさがりなどで共有するのは望ましくないとされる。それゆえに、子どもが成長して必要がなくなっても、捨てるのは忍びないと、供養してお焚き上げする「人形供養」が行われている。
従来の人形供養でも、愛着のあったぬいぐるみが持ち込まれることもあるが、昨今、盛んになっている推し活で急増した「ぬい」まで拡大したのが今回の「ぬい供養祭」。持ち込まれたものは、供養祭を経てお焚き上げされる。
推し活アイテムまで供養するのか?と思われるかもしれないが、ぬいは持ち主と共に過ごす密度の高い、仲間でもあり友でもある存在。たくさんの思い出が詰まったぬいを処分しにくいという声に応えたのが「ぬい供養祭」だ。
供養祭に参列したのは20~30代が多く、「気持ちの整理ができた」と話す参列者もいて、若い世代も「供養」を身近に感じることができたかもしれない。
文/阿部純子