今、NYでは野鳥が衝突しないように、窓にステッカーや飾りをつけるのが流行っている。これは大量の野鳥が被害に遭った911追悼の光の照射イベントの反省として、野鳥を保護しようという機運が高まった結果である。
911イベントでは強い光を空に照射した結果、渡りの途中の野鳥が光に惑わされ、ビルや人工物に衝突し、約110万羽が大量死した。この事件の反省として、NY市は地上23メートルまである建物の外装の9割に、野鳥が認識しやすいデザインの素材の使用を義務付ける条例を制定した。透明なガラスには模様を付けたり、紫外線フィルムを貼って、野鳥を守っている。NYの新条例を受けて、サンフランシスコ市でも保護条例の導入を計画している。
光害ガイドラインも策定されている
日本でも静かに多くの野鳥が光の被害に遭っている。2017年8月30日、楽天対西武の試合が行われたKoboパーク(現・楽天モバイルパーク宮城)にアカエリヒレアシシギの群れが迷い込んだ。
北極海で繁殖した後、南下している途中で、星からの光が球場の人工の光に消されて方向を見失った結果であると考えられている。
人間にとってライトアップは楽しいイベントだが、星の光を頼りに移動する野鳥にとって、人工の光は生命を脅かす危険なものでしかない。自然との共生を主張するならば、そろそろ光害についても配慮すべきだろう。
日本で人工の光の害が叫ばれるようになった最初のきっかけは天体観察だった。夜間、外灯や照明などの人工の光が多いと、夜空の星が見えにくくなる。環境省では2006年12月に光害対策ガイドラインを設定して、光害の定義や夜空の明るさ問題について注意を呼び掛けている。
鳥は光に影響されている
野鳥の光害の影響については、詳しい調査が行われていない。しかし、鳥と光には密接な関係があることはよく知られている。多くの鳥は光の影響で体内からホルモンを出し、繁殖させている。春、ウグイスはホーホケキョと鳴くが、春に増えてきた光が脳を刺激し、鳴く筋肉を刺激して、美しく鳴けるような身体へと変化する。
渡り鳥は体内に磁石の働きをする方位磁針をもち、地球の磁気を利用して移動を行っていると考えられている。また、太陽や星座を使って正確な位置を測りながら飛行する。アカエリヒレアシシギなど夜間に渡りをする鳥にとっては、体内の磁針だけでは正しい方向を導けない場合もあり、星による位置情報は重要なものだ。
特に日本の国土は南北に長く、渡り鳥の中継地点として重要な位置にある。夏鳥、冬鳥がやってくる貴重な場所で、世界に類を見ない野鳥天国なのである。現在、インバウンド需要が盛り上がっているが、野鳥観察を楽しみにやってくる外国人も多く、野鳥は日本人が知らない貴重な観光資源のひとつでもある。