日経平均株価(以下、日経平均)は2024年2月22日に約34年ぶりに史上最高値を更新。3月4日には4万円の大台を突破して年初来の上昇率は約2割に達した。
こうした倍速で進む株高を前に、「上昇ペースが速すぎる」「下がったら買いたいんだけれど」「昨年の売値より高くて手が出ない」などと嘆きつつ、呆然と上昇相場を眺めているだけの一般投資家も少なくないのではないか。
そこで三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏による、長期的な視点から日本株の現在位置と今後の展望について整理したリポートが到着したので、その内容を要約、再構成して紹介する。
長期的な視点から日本株の現在位置と今後の展望を整理
■処方箋その1:バブルとは無縁のバリュエーション
足元絶好調の日本株だが、年初来の上昇ペース(年率換算で+110%超、3月7日まで)はとても持続可能なものとは言えないだろう。
このため、いずれ調整局面を迎えると考えるのが自然だが、そうした調整局面は価格下落による「水準調整」よりも、相場がもみ合うことで値固めをおこなう「時間調整」となる可能性が高いのではないか。
というのも、現在の日本株にはバブル期のような割高感が見られないからだ。
足元の東証株価指数(TOPIX)のバリュエーションは、株価収益率(PER)で16.5倍、株価純資産倍率(PBR)で1.5倍だが(いずれも3月11日現在)、バブル期に日経平均が最高値を付けた1989年12月末は、PERは61.7倍、PBRに至っては現在の米国株をも上回る5.6倍を付けていた(図表1)。
こうしてみると、上昇ピッチにこそ過熱感が漂うものの、株価水準については過熱感やバブルとは程遠い状況といえそうだ。そのため、上昇ピッチだけを見てこの相場をやり過ごしていると、大事な投資機会を取り逃すことになりかねないだろう。
■処方箋その2:「デフレ脱却」という特効薬
「実質GDPがほとんど伸びない中で、日本株が上昇を続けるのはおかしい」との意見をよく聞く。だが、あなたの日本株投資意欲を削ぐこうした「おせっかい」には注意が必要だ。
というのも、企業の売上や一株当たり利益(EPS)といった株価を決めるファンダメンタルズは、インフレ調整後の実質GDPではなく、インフレ調整前の「素の数字」である名目GDPに連動する傾向が強いからだ(図表2)。
三井住友DSアセットマネジメントでは、2023年度の名目GDPは5.2%のプラス、2024年度も2.2%の成長を見込んでいる。
そして、こうした「名目GDPの成長」から、企業業績は今後も好調な推移が続くと予想。そして、足元では物価上昇と賃上げの好循環によるデフレ脱却が本格化することで、こうした見通しが実現する可能性が高まってきている。
◎大幅賃上げで脱デフレが加速する日本経済
連合は3月7日に24年度の春闘の要求集計を公表したが、定期昇給を含む賃上げ率は前年度比+5.85%(23年度+4.49%)、ベースアップ(ベア)は+4.30%(23年度+2.83%)となり、賃上げ率の要求水準としては30年ぶりの高水準となった。
近年の要求と妥結の乖離を踏まえると、24年度の労使が妥結する賃上げ率は+5.0%程度(23年度+3.58%)、ベアは+3.5%程度(23年度+2.12%)に着地するものと見込まれ、いずれも昨年度の実績や、市場コンセンサス(賃上げ率+3.9%、ベア+2.2%)を上回る大幅な賃上げが実現することとなりそうだ(図表3)。
人消費を中心とした内需の減速は、インフレの高止まりを背景とする実質賃金の低迷によるところが大きかったように思われる。
しかし、今後はインフレを上回る大幅な賃上げが実現するようならば、GDPの半分以上を占める個人消費が活性化することで、名目GDPや企業業績を押し上げ、日本株にもプラスの作用をもたらすことが期待できそうだ。
■処方箋その3:新値に逆らうな
市場には先人の知恵の結晶ともいえる様々な格言があるが、ここもとの市場環境を踏まえて押さえておきたいのが、「新値に逆らうな」という相場格言だ。
日経平均は約34年ぶりに高値を更新し、まさに日本株は「新値」をつける相場となっているが、こうした相場展開を甘く見て安易な売りを出すと、思わぬ代償を払うことがあるため注意が必要だ。
というのも、長期間破られなかった高値を抜けて「新値」をとるということは、有象無象の売り物を全て吸収しても余りある買い需要と、それを裏付けるファンダメンタルズの強さが背景にあるからだ。
このため、過去に主要な「新値」が出現した際には強烈な買い相場となるケースも少なくなく、さらに「持たざるリスク」が意識されて相場が上がり過ぎるケースも見られた。