写真は「銀峯陶器株式会社」より提供(以下同)
皆さんのご家庭では、どのくらいの頻度で「土鍋」を使っているだろうか?鍋料理での使用はもちろん、炊き込みご飯や煮込み系の調理でも活躍する。
筆者も実は、ご飯は土鍋で炊く派だ。美味しく素早く炊けるので、もう数年ほど土鍋を使用している。
しかし、そんな土鍋が生産の危機にあることをご存知だろうか?
「萬古焼」の土鍋とは
三重県四日市市の代表的な陶磁器である「萬古焼」。萬古焼は、日本で販売されている土鍋の8割のシェアを占めるという。
萬古焼の特徴として、耐熱性に優れており、割れにくいことがあげられる。
萬古焼の起源は江戸時代中期に遡るが、“耐熱性に優れ、割れにくい萬古焼の土鍋”が登場し、シェアを伸ばし始めたのは昭和30年代中頃からだ。
萬古焼の原材料の粘土に「ペタライト」という鉱石を配合するようになったのもそのころ。それにより、熱による膨張が少なく、高火力のガスで使用しても割れにくい土鍋が誕生したのだ。
萬古焼の土鍋の生産危機
萬古陶磁器工業協同組合理事長 熊本哲弥氏
しかし、その萬古焼の土鍋が現在、生産の危機にあるという。原材料のひとつであるペタライトが入手困難になっていることが原因である。詳しい現状を萬古陶磁器工業協同組合、理事長の熊本哲弥氏に伺った。
「萬古焼の原材料として使用しているペタライトは、主にアフリカ大陸にあるジンバブエの鉱山から輸入していました。しかし、2022年2月に中国系企業がその鉱山を買収したことにより、日本への輸出が全面的にストップしてしまいました」(以下「」内、熊本氏)
ちなみに、中国企業の目的はペタライトに含まれる“リチウム”である。電気自動車に使用する“リチウムイオン電池”の需要が高まったことが鉱山買収の理由だ。
「ペタライトは熱を加えても膨張が少なく、低膨張な土鍋を作るのに必要不可欠な素材です」
土鍋生産の現状は?
ペタライトが輸入できない現在、土鍋の生産状況はどうなっているのだろうか。熊本氏に現状を聞いた。
「ペタライトは流通に時間がかかるため、常に在庫をストックしてあります。ストックしてあった在庫の他に、アジアやヨーロッパなどから少しずつペタライトを買い付けて、2024年の分はなんとか確保できています」
今年の生産はなんとかなると聞き、一安心だ。しかし、値上げは避けられないという。
「買い付ける場所によって値段が違うので一概には言えませんが、価格は2年前(2022年)の2倍では済んでいません。3?5倍くらいで買い付けているので、土鍋の値上げも避けられません」
値上げしないと採算が取れなくなってしまうという。