ゾンビ習慣の脱却に大切なのはドーパミンをうまく働かせること。そのためには、ストレスから回復する力=レジリエンスの強化も必要。さらに山下さんが提案するのが、「エモーションシフト」の新理論だ。
ゾンビ習慣に嫌なイメージを定着させる
これまで、記憶は時が経つと、定着して固定するものと考えられていた。ところが最近になって、固定されたはずの記憶は再び思い出すことによって不安定になり、置き換えられることがわかってきたのだ。これを「記憶の再固定」というが、「その仕組みを使ってゾンビ習慣に嫌なイメージを定着することができれば、ゾンビ習慣を求め続けることはなくなる」と山下さん。
「例えば10年前に私はAさんとBという場所に行ったことを思い出すとします。この時一緒に行ったのは『Aではなく、Cさんだったよ』と言われれば『そういえばそうかもしれない』という気持ちになり、AさんがCさんに置き換わることがあります。また場所についても『BじゃなくDだったよ』と写真を見せられると、今度は場所がDに置き換えられる可能性がある。つまり、例えばお酒をやめたいなら、お酒を飲むシーンを思い出し、その場所での楽しい記憶ではなく『嫌な記憶』を再固定すればいいのです」
さらに人間の記憶は、感情を伴う記憶のほうが定着しやすいこともわかっている。普通の何気ない会話は忘れても、言われてイラッとしたことは忘れにくいもの。そこで、消したい記憶の上にネガティブな感情記憶を重ね、ゾンビ習慣=嫌な感情を起こすもの、という記憶をしっかり固定してしまえばいいのだ。この手法こそが「エモーションシフト」。
「例えば、昔の恋人を思い浮かべるとします。つきあい始めの頃は、好きで会いたくてたまらなかったのに、いろいろと嫌なことが重なって別れてしまうと、もうその人の顔も見たくなくなるでしょう。同様にやめたい習慣=嫌な感情を引き出すものとして記憶できるようになれば、ゾンビ習慣が嫌いになってその悪夢から抜け出せます。さらにゾンビ習慣に代わる新たなワクワク習慣を見つけて、良い感情を吹き込むことも大事。『やめられない』を『やめる』カギこそ、エモーションシフトなのです」
昔のことを思い出すと、固定していたことがあやふやになり、別の情報や感情が追加されて、違う記憶に置き換えられることがある。
単行本ではワークシートを用いた実践が可能
『「やめられない」を「やめる」本─脱・依存脳─』では、エモーションシフトを活用して、ゾンビ習慣を撃退する実践的ワークシートも掲載。やめられない行動について質問に答えていくことで、自分の感情と向き合うトレーニングが可能だ。さらに購入者には同シートの完全版や、ボディースキャンガイド音声などのダウンロード特典もあり!
取材・文/山下あきこ、編集部 イラスト/西谷 久 図版/後藤裕二(ティオ)
『「やめられない」を「やめる」本 -脱・依存脳-』
著/山下あきこ(脳神経内科専門医)