KDDIは、2002年にテレマティクスサービスを提供するなど、トヨタ自動車とはIoTの黎明期からの深い間柄だ。
実際、2019年にはトヨタ自動車のグローバル通信プラットフォームの提供を行い、世界7地域、83か国・地域で、コネクテッドサービスを提供している。
ちなみにトヨタ自動車は、NTTと「Woven City(ウーブンシティ)」というスマートシティ構想で提携を行い、また、ソフトバンクとはモビリティプラットフォームを構築する「MONET」という会社を共同出資して設立している。
そんな中、KDDIとトヨタ自動車が手がけているのは主に3つの分野だ。「安全・安心なモビリティ社会の実現」「グリーンなモビリティ社会の実現」「モビリティ体験価値の拡張」となる。
KDDIとトヨタ自動車はなぜ、安心・安全なクルマ社会に向けて技術連携をするのか……両社が行った「つながるモビリティ社会に向けた取り組み説明会」で確認したい。
交通事故の回避、セキュリティの強化で安全・安心なモビリティ社会を実現
「安全・安心なモビリティ社会の実現」においてKDDIは、同社が持つ人流データとトヨタが持つ車両データ、さらにオープンデータを組み合わせた「危険地点スコアリング」を2024年春にも自治体や企業に提供する予定だ。
KDDIにはauユーザーのスマートフォンから最小50m単位の位置情報とともに、歩行者数や自転車数、年代などのデータを数分間隔で収集している。一方、トヨタでは車両数や平均車速、急減速発生件数、一時停止率などを車両から集めている。
こうしたデータに道路特性や交通事故発生件数などを掛け合わせ、AIによる分析を行うことで、地図上に「高齢者の歩行者が多い」「自転車の交通量が多い」「急ブレーキが多発している」といった危険情報をマッピングできるようになるという。
これらのデータを自治体に販売することで、安全なまちづくりに役立てて欲しいというわけだ。
また、すでに実証実験を行い、効果が認められた取り組みとしては「Vehicle to Bike」がある。
タクシーの日本無線の車両と、デリバリーサービスの出前館で使われている自転車、それぞれにスマートフォンを設置。見通しの悪い交差点などでお互いが近づいている際には、それぞれのスマートフォンに車両もしくは自転車が近づいているというアラートを出すというものだ。
世界的には「セルラーV2X」として、車両同士が直接通信を行い、接近しているので注意すべきとアラートを出す規格があるが、KDDIではスマートフォンを用い、一度、クラウドにデータを上げて、処理するというやり方を実施している。
スマートフォンにアプリがインストールされていれば、キャリアは問わない仕組みとなっているので、将来的に国民すべての車両や自転車に乗る人が利用すると、見通しの悪い交差点での交通事故はかなり減少するかも知れない。
そして今後、ネットワークにつながるクルマが増えていく中、サイバー攻撃などのリスクも無視できなくなっている。
KDDIでは同社のモバイルネットワーク情報とトヨタの車両情報、サーバー情報などを横断的につなげ、基地局のダウンや管理サーバー経由の攻撃、クルマを踏み台にした攻撃などを検知し、従来では把握できなかったクルマへの影響を軽減し、回避対策を実施できるようにしていくという。
クルマのデータを集約する4キャリアと自動車メーカーの座組を求めて
今回、KDDIとトヨタ自動車は、「つながるモビリティ社会に向けた取り組み説明会」の中で、コネクテッド社会への取り組みを改めて発表したが、国内の自動車業界と通信業界を見るとコネクテッドカーが使っている通信回線は「トヨタ系ーKDDI」「日産ーNTTドコモ」「ホンダーソフトバンク」という、謎の棲み分けができてしまっている。
日本国内を走るクルマに提供されるコネクテッドサービスが、今後も3陣営に別れていては、データが分散された状態が続き、有益なデータが集まったとしても活用されないという「宝の持ち腐れ」状態になりかねない。
KDDIの門脇誠経営戦略本部長は「これから検討することになるが、こういった取り組みをKDDIという起点でほかのモビリティのサービスにも広げて行きたい」と語る。
また、トヨタ自動車の情報システム本部 情報通信企画部、木津 雅文 部長も「2社で閉じることなく、いろいろな可能性を含めて今後検討していきたい」としている。
2024年2月20日開催の「つながるモビリティ社会に向けた取り組み説明会」に登壇した、左からKDDI株式会社 技術統括本部 技術戦略本部長 大谷 朋広氏、同社 執行役員 経営戦略本部長 門脇 誠氏、トヨタ自動車株式会社 情報システム本部 情報通信企画部 部長 木津 雅文氏、同社 情報システム本部 情報通信企画部 InfoTech-IS 室長 大西 亮吉氏
将来的に、すべてのクルマのデータがビックデータとして、1か所に集まりつつ、クルマと自転車、バイク、さらには人が持つ、すべてのスマートフォンがつながり、クルマの接近をスマートフォンで知ることができる、そんな安心・安全につながる取り組みを、4キャリアとすべての自動車メーカーが一緒になって取り組める座組が必要になってきそうだ。
取材・文/石川 温
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。