ベネッセコーポレーションは、同社の社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所の共同研究プロジェクト「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」の結果速報を公表した。
ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所は、2014年に「子どもの生活と学び」の実態を明らかにする共同研究プロジェクトを立ち上げ、同一の親子(小学1年生から高校3年生、約2万組)を対象に、2015年以降9年間繰り返して複数の調査を実施。12学年の親子の意識・行動の変化を明らかにしてきた。
子どもの「幸せ実感」に関連する要因の分析
子どもの「幸せ実感」に関連する要因の分析からわかった主な結果は、以下のとおり。
<1>「幸せ実感」に関するデータ
子どもの「幸せ実感」に関連する要因の分析に先立って、「幸せ実感」に関するデータを紹介する。
1)今と将来の幸せ―約8割が「自分は今、幸せだ」「自分は将来、幸せになれる」と回答
今と将来の幸せについては、「まあそう思う」が5割と多数を占め、「とてもそう思う」という回答は3割だった。一方で、「あまり+まったくそう思わない」と回答した子どもが約2割いた【図0-1】。
図0-1:今と将来の幸せ(子ども全体、学校段階別)
2)幸せ実感得点と幸せ実感3群の分類
子どもの「幸せ実感」に関連する要因を分析するために、「幸せ実感得点」を算出した。
「幸せ実感得点」は「自分は今、幸せだ」「自分は将来、幸せになれる」の2項目について、「とてもそう思う」4点、「まあそう思う」3点、「あまりそう思わない」2点、「まったくそう思わない」1点として回答を合計して算出。
また、それをもとに「幸せ実感3群」の指標を作成した。以降の「幸せ実感」に関連する要因の分析には、この指標を用いている【図0-2】。
図0-2:幸せ実感得点と幸せ実感3群
<2>地域―居住する自治体の人口規模は、子どもの「幸せ実感」と関連がない
居住する自治体の人口規模と子どもの「幸せ実感」との間には関連がみられなかった【図1】。
図1:子どもの「幸せ実感」(居住する自治体の人口規模別)
<3>家庭環境―家庭の経済状況や保護者の学歴は、子どもの「幸せ実感」と直接の関連はない
家庭の経済状況(世帯収入)との関連をみたところ、高収入世帯の子どもの方が「幸せ高群」が多い傾向があった【図2】。
しかし、その差は小さく、重回帰分析の結果(図6)では世帯収入の効果はみられない。同様に、保護者の教育年数(学歴)も関連はなかった(図は省略)。
教育的な働きかけ(図3-3)が多い保護者は収入や学歴が高い傾向があるので、図2のような差が現れる。しかし、それ自体は子どもの「幸せ実感」に直接の関連があるわけではないようだ。
図2:子どもの幸せ実感(世帯収入別)
<4>保護者の要因―保護者自身の幸せ実感や教育的な働きかけが、子どもの「幸せ実感」と関連
1)保護者の幸せ実感―保護者の幸せ実感と子どもの「幸せ実感」は連動している
「幸せ高群」の保護者の子どもは、5割が「幸せ高群」です。これに対して、保護者が「幸せ低群」だと、「幸せ高群」の子どもは2割にとどまりる【図3-1】。
同じ親子を3年おきに6年間追跡して分析すると、保護者の幸せ実感が3年後の子どもの「幸せ実感」に影響するだけでなく、子どもの「幸せ実感」が3年後の保護者の幸せ実感にも影響していた【図3-2】。
保護者が幸せだと子どもは幸せを感じ、子どもが幸せだと保護者も幸せに感じるようになる。
図3-1:子どもの「幸せ実感」(保護者の幸せ実感別)
図3-2:保護者の幸せ実感と子どもの「幸せ実感」の関連
2)保護者の教育的な働きかけ―寄り添うような働きかけを受けている子どもほど幸せ実感が高い
「勉強の面白さを教えてくれる」を肯定する子ども(肯定群)は「幸せ高群」が41.3%であるのに対して、否定する子ども(否定群)は31.7%と約10ポイント低い結果となった。
同様に、寄り添うような働きかけを受けている子どもは、受けていない子どもに比べて幸せ実感が高い傾向がみられる【図3-3】。
図3-3:子どもの「幸せ実感」(保護者の教育的な働きかけ別)
<5>子どもの属性―子どもの学年が上がるほど幸せ実感は低下
学年が高い子どもほど「幸せ高群」が減少、「幸せ低群」は増える傾向がある【図4】。
図4:子どもの「幸せ実感」(学年別)
<5>子どもの状況―学校生活、友だち関係、学びの状況、自己に関する認識が、幸せ実感に関連する
1)学校生活の状況―学校生活が充実している子どもほど、幸せ実感が高い
「授業が楽しい」を肯定する子ども(肯定群)は「幸せ高群」が43.2%であるのに対して、否定する子ども(否定群)は20.4%と20ポイント以上の差がある。
同様に、「尊敬できる先生がいる」「自分の学校が好きだ」を肯定する子どもは、否定する子どもに比べて幸せ実感が高いことがわかる【図5-1】。
図5-1:子どもの「幸せ実感」(学校生活の状況別)
2)友だち関係の状況―友だち関係が良好な子どもほど、幸せ実感が高い
「友だちと一緒にいるのが楽しい」を肯定する子ども(肯定群)は「幸せ高群」が37.1%であるのに対して、否定する子ども(否定群)は17.4%と20ポイント近い差がある。
一方で、「友だちとの関係に疲れる」を肯定する子どもは、「幸せ高群」の出現率が低い結果になっている【図5-2】。
図5-2:子どもの「幸せ実感」(友だち関係の状況別)
3)学びの状況―学びにポジティブな意識・行動の子どもほど、幸せ実感が高い
「勉強が好き」を肯定する子ども(肯定群)は「幸せ高群」が47.4%であるのに対して、否定する子ども(否定群)は27.4%と20ポイントの開きがあった。
一方で、「勉強しようという気持ちがわかない」といったネガティブな意識をもつ子どもは、「幸せ高群」の出現率が低いことがわかる【図5-3】。
図5-3:子どもの「幸せ実感」(学びの状況別)
4)自己に関する認識―肯定的な自己認識を持つ子どもほど、幸せ実感が高い
「自分に自信がある」を肯定する子ども(肯定群)は「幸せ高群」が50.6%であるのに対して、否定する子ども(否定群)は21.4%と約29ポイントの開きがある。
同様に、粘りづよさ、挑戦心などに関する質問でも、肯定群の子どもの方が幸せ実感が高い傾向がみられる【図5-4】。
図5-4:子どもの「幸せ実感」(自己に関する認識別)
【まとめ】子どもの幸せを実現するために
図6:子どもの「幸せ実感」の規定要因分析(重回帰分析の結果)
1)属性の関連は弱い
重回帰分析の結果【図6】では、地域(図内1)、家庭環境(図内2)、子どもの属性(図内4)にかかわる要因は、幸せ実感とあまり強い関連がみられなかった。
このことは、地域や家庭環境、子どもの属性などにかかわらず幸せを実感できる可能性を示唆する。ただし、子どもの属性では、子どもの学年が上がるほど幸せ実感が低下する傾向がみられた。
2)保護者の幸せ実感・教育的な働きかけの関連が強い
保護者の影響(図内3)については、保護者の幸せ実感や子どもに寄り添う働きかけなどが子どもの幸せ実感に関連していた。保護者自身の状況や子どもとのかかわりが、子どもの幸せには重要だ。
3)学校生活の充実、良好な友だち関係、学びの状況、自己認識など多くの要因が関連
さらに、子どもの状況(図内5)にかかわるさまざまな要因も、子どもの「幸せ実感」と関連している。
・学校生活の状況
授業の楽しさ、先生との安定した関係、学校への愛着などが、幸せ実感に関連している。こうした充実した学校生活を築くことは、子どもの「幸せ実感」の向上に効果的といえそうだ。
・友だち関係の状況
友だちとポジティブな関係を築いている子どもは幸せを実感する一方で、ネガティブな意識が強い子どもは幸せ実感が低い傾向にある。安定した友だち関係を築くことも、幸せの実現には重要だ。
・学びの状況
勉強が好きで学習の工夫をしている子どもは幸せを実感しているが、学習意欲が低い子どもは幸せ実感が低い傾向があった。学習活動の充実も、幸せには重要な要素だ。
・自己に関する認識
自信、粘りづよさ、挑戦心など、自己に関する意識も幸せ実感と関連している。いわゆる非認知能力といわれる資質・能力を高めていくことも、幸せ実感を向上させるのに有効だと考えられる。
調査概要
名称 /「子どもの生活と学びに関する親子調査2015-2023」(第1-9回)
調査テーマ/
【子ども調査】 子どもの生活と学習に関する意識と実態
【保護者調査】 保護者の子育て・教育に対する意識と実態 ※小1~3生は保護者のみ実施
調査時期/各年7~9月
調査方法/
2015年は郵送調査とWEB調査の併用。2016~20年は郵送調査、2021年は郵送調査とWEB調査の併用、2022~23年はWEB調査
関連情報
https://berd.benesse.jp/special/datachild/datashu05.php
構成/清水眞希