田嶋幸三現会長が抜擢した森保一監督を宮本新会長は厳しい目線で評価できるのか?
その1つが、冒頭の日本代表再建だ。2022年カタールW杯でドイツ・スペインを撃破したことを高く評価され、森保一監督が続投。2023年3月から新体制がスタートし、6月のエルサルバドル戦から今年1月のベトナム戦まで10連勝するなど、日本代表の評価はうなぎ上りだった。
「これなら2026年北中米W杯優勝の大目標も夢ではない」とさえ目されるなど、期待は膨らむ一方だった。それがアジアカップの敗退で急降下。指揮官のマネージメント能力や采配力含め、各方面から疑問符がつけられるようになった。
目下、反町康治技術委員長を筆頭に検証作業を進めている模様だが、今後について決まっているのは森保監督続投だけ。それも前任の田嶋会長が中心となって推し進めた人事で、次に何かあった時に宮本氏が大ナタを振るえるかどうかは未知数だ。
サッカーはどうなるか分からない世界。有事が起こる場合を想定して、最悪のシナリオも用意しておかなければいけない。もちろん、それを回避するためのテコ入れ策も必要。宮本体制始動後には何らかの動きを見せてほしいものである。
放映権高騰によってテレビ放送の難易度が高騰。今回のアジアカップも敗れたイラク・イラン戦だけが地上波放送という皮肉な状況になったことも、代表人気にマイナス影響を及ぼしている。多くの関係者が「サッカー離れが起きる」と危機感を募らせており、人気維持・新たなファン獲得も宮本氏の大きなテーマになりそうだ。
昨年12月のJFAサッカー文化創造拠点「Blue-ing!」オープンイベントで挨拶する宮本氏(筆者撮影)
サッカー人気向上、少子化対策、財政再建…新会長の責務は重大だ
放映権料の問題はJFAだけで何とかなる問題ではないが、ライト層や子供たちが気軽にサッカーと触れあえる環境を作ることが肝要。それは宮本氏もよく分かっていて、この2年間も「JFA Passport」というアプリの開発、サッカー界の課題解決に取り組む「アスパス!協働プロジェクト」の推進、東京ドームシティ内のJFAサッカー文化創造拠点「Blue-ing!」の開設などにも積極的に関わってきた。
その全てが順調に進んでいるとは言えない側面もあるが、子供たちや若年層への遡及を続けない限り、未来はない。40代の若いリーダーである宮本氏の新たな感性を生かして、そういった課題を1つ1つ克服していかなければ、明るい未来は開けてこない。創意工夫を凝らした多角的なアプローチが成功してこそ、JFAの財政面が改善に向かうと言っていい。
これまで日本のスポーツ界では最も潤っていると言われてきたサッカー界だが、2020年からのコロナ禍のダメージは甚大で、2022年度(1~12月)からの決算は収入191億1149万円に対し、支出は239億9271万円と約48億8000万円もの大幅赤字となった。これは通常のように代表戦が開催できず、観客収入やスポンサー収入が減少したためだ。
同年はコロナ禍の影響を踏まえ、もともと46億円超の赤字予算を組んでいたうえ、JFA特定預金を取り崩したことで、実質的な赤字は3億5000万円程度に縮小されたが、厳しい状況に陥ったのは間違いない。
こうした苦境を打開するため、JFAは2002年日韓W杯の収益などで購入した東京都文京区にJFAハウスの売却を決断。2023年6月に新拠点へ移動し、再び賃貸での活動に戻った。2023年度(同)はその売却益が加わって前年比100億円増、67億円超の黒字となる見通しだが、こういったウルトラCはこの先は使えない。
少子化の影響もあり、選手登録数は2014年度の96万4328人をピークに下降線を辿っており、2022年度時点では81万7375人。JFAが定めた2005年宣言では「サッカーファミリーを100万人する」という目標が掲げられていたが、現実はほど遠くなってしまっている。だからこそ、今ある目先の原資を有効活用し、最大の効果を得られるようなマネージメントを新会長は考えなければいけないのだ。
昨年12月の中村俊輔引退試合に参加した宮本氏(前列右から2人目)。多くの仲間の力を借りてJFAを活性化してほしい(筆者撮影)