「2048年、海から魚がいなくなる」——これは2006年に科学専門誌『サイエンス』に掲載された衝撃的な学説だ。
実際に近年日本でも、漁獲量は減少の一途を辿っている。要因として挙げられるのは気候変動や乱獲、マイクロプラスチック等による海洋汚染の影響だ。こうした問題が改善されなければ、日本人が大好きな寿司もひょっとしたら近い将来食べられなくなるかもしれない。
そこで今注目されているのが、人工的なサステナブル食品の開発である。
ニチレイフレッシュが2023年9月から試験販売を開始している人工イクラ「みらいくら」は、持続的・安定的な調達が期待されている。さらにコレステロールもゼロという。今回は人工イクラ「みらいくら」と本物のイクラを食べ比べ、味や見た目などをレポートしてみたい。
回転ずしからいくらがなくなる?
そもそも「みらいくら」とは
「みらいくら」とはニチレイグループのニチレイフレッシュが現在試験販売を行っている人工イクラである。昆布のぬめり成分として知られるアルギン酸のほか、しょうゆや米発酵調味料などを用いて見た目だけでなく味も本物に近付けた。海藻由来のため、コレステロールを気にすることなく楽しめるという。
みらいくら100g980円
ニチレイは持続的に新たな価値を創造し、将来の事業を生み出すための仕組みの1つとして、2020年から社員であれば誰でも新規事業に挑戦できるニチレイアクセラレーションプログラム「MinoruN(みのるん)」を開始している。
全従業員から事業アイデアを募集・選抜し、事業化を推進する取り組みだ。新規事業の経験がない社員でも事業アイデアを提案できるよう、ビジネスモデルの構築に必要な知識や顧客ニーズの探索方法などを学べるスキルアッププログラム、アイデア創発のためのワークショップなども備えているという。
「みらいくら」はそのプログラムから誕生した。昨今の地球環境の変化により、天然資源であるイクラや筋子などの魚卵原料の調達にも影響を及ぼしており、将来における持続的・安定的な調達へのリスクは避けられない。
このような課題に対するニチレイフレッシュ水産事業部を中心としたメンバーの思いが発端となってアイデアが生まれ、食品物性の知見を持つ技術部門や、魚卵加工品に関する生産技術力を持つ株式会社フレッシュまるいちの支援を受けて商品開発を行なったという。
ニチレイフレッシュの田邉弥社長は昨年、自社開催のセミナーにおいて「持続可能性」と「食と健康」へ挑戦していくと表明した。「みらいくら」はその代表的な取り組みとして期待され、現在顧客ニーズを探りつつ、2025年度の本格販売を目指している。
徹底比較!本物のイクラV.S.「みらいくら」
左が本物のイクラ、右がみらいくら
・価格
「みらいくら」の販売価格は100g980円、1gあたり9.8円。今回比較するイクラはスーパーで購入したノーブランド品で40g690円、1gあたり17.25円だった。みらいくらとの価格差は2倍近く。贅沢品という印象があるイクラだが、「みらいくら」ならば懐を気にせずたっぷりと使えそうだ。
・日持ち
イクラは生もののため、一般的には足が早い食品だ。今回購入したイクラの賞味期限は購入日の4日後となっていた。
一方今回届いた「みらいくら」の賞味期限は12日後。楽天の販売ページによると賞味期限は製造後62日で、賞味期限7日以上のものを出荷しているという。いずれにせよ、本物のイクラよりは長く楽しめるようだ。
・見た目
遠目で見るぶんにはほぼ見分けがつかない。むしろ「みらいくら」の方が大粒で大きさも揃っており、つやつやしていて見た目には華やかな印象。本物と見分けるポイントは中心の色の濃い部分(目玉)の有無。近くで見るとさすがに分かりやすい。
みらいくら
本物のイクラ
・食感
本物のいくらは外側がぱつぱつに張っており、噛むとぷちっと弾ける。一方「みらいくら」は表面が柔らかく、くにゅりとした食感。弾けるというより破れるといった方が近いテクスチャだった。「みらいくら」の方が多少皮が脆いのか食べ進めるうちに茶碗の中で破れ、汁でごはんが染まってしまった点も少し気になった。
・味
今回最も違いを感じたポイント。本物のイクラは味が濃く磯の旨味をしっかり感じられたのに対して、「みらいくら」は旨味より醤油っぽさが先行した。味付けの方向性こそ似通っているものの完全に別物で、目を瞑っていても違いが分かる。味そのものも薄く、白いごはんと一緒に食べると人によっては物足りないかもしれない。とはいえ決してまずいわけではなく、イクラと比べなければこれはこれでアリ。
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「みらいくら」にも見た目や日持ちといった利点がありつつも、肝心な味や食感では総じて本物に軍配が上がった。しかし取り組みそのものは興味深く、今後の展開に注目だ。
何かと祝い事の多い春。ちらし寿司や手巻き寿司の彩りにイクラを買い求める人も多いだろう。今年は「みらいくら」で食の未来に思いを馳せてみてはいかがだろうか。
取材・文/キタノ