今、ホンダ車で大きな話題になっているのが、3月22日に発売予定の新型コンパクトクロスオーバーSUV、Z世代にもアピールしたいという、インドで生産され逆輸入されるWR-Vだ。特徴的なのは、駆動方式がFFのみ。パワーユニットも4気筒1・5L NAのガソリンエンジンのみということだ。
現時点でのホンダSUVのラインナップは、発売順ではヴェゼル(FF/4WD、e:HEV/ガソリン)、以前のCR-VのポジショニングをカバーするZR-V(FF/4WD、e:HEV/ガソリン)の2モデル。ならば、WR-Vはヴェゼルの下位に位置づけられるさらなるコンパクトモデル(トヨタ・ライズやダイハツ・ロッキーなどのポジション)かと思いきや、その寸法を確認すると、なんとヴェゼルと大きく違わない。
まず、基本プラットフォームをヴェゼルから受け継ぐWR-Vとヴェゼルのボディサイズ、ホイールベースを比較してみると、WR-Vは全長4325×全幅1790×全高1650mm、ホイールベースはBセグメントSUV最大級の2650mm。一方、ヴェゼルは全長4330×全幅1790×全高1590mm、ホイールベース2610mmとなる。
つまり、WR-Vはヴェゼルに対して全長が5mm短いだけで、全幅は同じ。そして注目すべきはホイールベースがヴェゼルより長く、全高もWR-Vのほうが60mm高いこと。そして最低地上高がWR-Vは195mm。ヴェゼルはFFが185mm、4WDが170mmとなり、最低地上高に関しても、FFのみながらWR-Vのほうが余裕があることになる。
WR-Vがガソリン車のみということで、ヴェゼルGのガソリンFFモデルと車重、燃費性能を比較すると、車重はWR-Vがグレードにより1210~1230kg。ヴェゼルG(ガソリン車)のFFは1250kgとやや重い。しかし、両車のWLTCモード燃費はWR-Vがグレードにより16.2~16.4km/L、ヴェゼルGが17.0km/Lと、ヴェゼルが僅差で上回る。これは車高の高さの違いによる空気抵抗の差もあるだろう。
両車はSUVとしてのキャラクターも異なる。全高の低さやスタイリッシュさが強調され、土の臭いがしないキャラクターなのがヴェゼルであり、WR-Vは全高や最低地上高、アンダーガードやサイドアンダープロテクターを目立たせていることからも、よりクロカン的なデザインを用いた、リーズナブルなスタート価格(209.88万円~248.93万円)もまた売りのコンパクトクロスオーバーSUV。ヴェゼル(G FF 239.91万円)とは異なるコンセプトで造られていることが分かる。そりゃあそうである。全長、全幅がほぼ同じ、キャラクターも被るクロスオーバーSUVを2台ラインナップする理由などないからだ。
WR-Vの商品性のひとつが、ヴェゼルよりホイールベースが40mm長く、全高の高さもあって、とくに後席のゆとり、ラゲッジルームの広さだ。ラゲッジルームについて具体的なデータを示すと、ヴェゼルはフロア奥行755mm、フロア幅1010mm、最低天井高780mm。後席格納時のフロア長1550mm(実測値)。
一方、WR-Vはフロア奥行840mm、フロア幅1020~1350mm、最低天井高882mm。後席格納時のフロア長2181mm(メーカー値)。つまり、後席使用時にゴルフバッグが積むのが難しい(先代ヴェゼルはOK)ヴェゼルに対して、WR-Vはゴルフバッグの積載容易性はもちろん、TVCMにもあるように、ホームセンターで買った大荷物、アウトドアの大荷物も余裕で積み込める積載力にアドバンテージがあるということだ。
具体的には、4人分のアウトドア用品、スーツケース21インチ×2+25インチ×2、後席片側格納で約170cmのサーフボード、後席両側格納で27インチの自転車も積載可能と説明されている。
後席に関して言えば、WR-Vは頭上、膝周り空間の余裕とともに、全車、後席エアコン吹き出し口があり、後席の居住性、快適性を重視していることが分かる。ヴェゼルのガソリン車は後席エアコン吹き出し口未設定だ(e:HEVモデルには用意されている)。
もっとも、WR-Vはすでに説明したように4WDの設定はなく、見た目のSUVテイストとは裏腹に、オンロード重視のアーバンSUVというキャラクターがより強調されているところが特徴。スムーズな加減速、スポーティな走りを可能にするパドルシフトを標準装備しているのもWR-Vならではだ。
最後に、WR-VのライバルSUVは?という点だが、価格的にはトヨタのヤリスクロスの1.5Lガソリン車の最上級グレードとなるZ”Adventure”、233.1万円(2WD)が挙げられる。が、ヤリスクロスのボディサイズは全長4180×全幅1765×全高1590mm。ホイールベース2560mmと、WR-Vよりひとまわりコンパクトとなるため、クラス違いで、室内空間のゆとりはもちろん、ラゲッジルームの寸法も、WR-Vにリードされて当然だ。では、トヨタのカローラクロスはどうかと言えば、こちらのパワーユニットは2Lで、車格もWR-VのBセグメントからCセグメントとなり、クラス違いということになってしまう。
よって、勝手な判断として、”ちょうどいい”お手頃クロスオーバーSUVとも言えるWR-Vのライバル車は見つけにくく、なんと、価格を含め、同門の欧州クロスオーバーモデルを彷彿させるデザイン性を備えたヴェゼルのガソリンFF車がライバルになるかも知れない・・・。その上で、WR-Vは、エクステリアのよりSUVテイストあるデザイン、後席のゆとり、ラゲッジルームの広さがセールスポイントになると思われる。
WR-Vの公道試乗記は、今春、発売されてから、改めてお伝えしたい。
文/青山尚暉
写真/ホンダ 青山尚暉