周囲に仕掛けられた認知バイアスという“落し穴”
異性に対しては活発に発動する男性の“審美眼”だが、同性に対してはあまり熱心になれないのは、それが自分に跳ね返ってくるからでもあるだろう。
もちろん男性タレントや男性俳優などの秀逸なルックスを認める機会もそれなりにあるが、いちいち気にしていればよほど容姿に恵まれていない限り多くは我が身の姿がどんどん惨めに感じられてもくる。
それでも前出の研究のような状況を含め、同性の身体的魅力をそれなりに評価する機会もある。それはもちろんお金や“損得”に関わってくるからだ。
そしてもちろんその評価もまた透明人間ではない以上、自分に跳ね返ってくるものであることに変わりはない。
1954年に社会心理学者のレオン・フェスティンガーによって提唱された「社会的比較理論(social comparison theory)」は、個々人がどのように自身の意見や能力を評価しているのかを説明する理論のひとつである。
では自分を誰と比較するのか。同理論では自分よりも上のグループと比較することを「上方比較」といい、自分よりも下のグループと比較することは「下方比較」と定義されている。
上方比較は自分の劣性を認めることになるが、より高みに自分を成長させたいという上昇志向の動機づけになる一方、下方比較は何もしなくともそれなりの優越感と居心地の良さを感じさせてくれる。
これに当てはめれば、多くにとってイケメンと接点を持つことは上方比較ということになる。イケメンにあやかり、あわよくばイケメンのグループの末席に入ることでアドバンテージが得られるのではないかという“ポジティブシンキング”だ。
前出のバールマン氏によれば、この上方比較は投資におけるリスクテイキングを誘発しているということで、この理論からもイケメン起業家に投資が集まる理由を説明できそうだ。
したがっておおむねイケメン起業家の人気にあやかっていればいいということにもなり、実際に自身がイケメンである投資家を含む多くがイケメン起業家を支持しているのだが、今回の研究結果に従えば非イケメン投資家は手放しで支持しているわけではなく、ある日“心変わり”をする可能性もある。
その意味では非イケメンのほうが物事を注意深く観察しており、柔軟な考え方で方向修正ができていると言えなくもないのだが、この傾向もまた認知バイアスになり得るものでもあり、投資行動においてこの非イケメンの戦略が適切であるのかどうかはまったくの別問題だ。
“ミスコン”の審査をAIが行うという未来がひょっとしたらあるのかもしれないが、今のところは審査員も同じ人間であり当人もまた非公式ではあれ他者からの容姿の評価を免れることはできない。
透明人間にはなれない以上、周囲に仕掛けられたいくつもの認知バイアスという“落し穴”が常に足元で待ち構えている。
そうしたバイアスに1つでも多く気づくことで、“裸の王様”になってしまう愚を避けたいものだ。
※研究論文
https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2023.1259143/full
文/仲田しんじ