僕の故郷は餃子で有名な栃木県宇都宮市だが、社会人になった1980年をかなり過ぎた頃まで、誰も宇都宮を“餃子の街”などとは呼ばなかった。そういえば宮城県出身の有名人がテレビで、牛タンがいつの間に仙台名物になったのかと不思議がっていた。どちらも成功した“街おこし”なのだろう。
そして今、栃木県は“いちご王国”を謳う。小学校の社会で“いちごなら静岡県の久能山”と習った記憶があり、栃木県が王国と自称するほどのいちごの産地とはゆめゆめ思わなかった。だが調べてみると1968年から生産量連続日本一で、まさに“いちご王国”だ。県民の誇りとも言えようが、帰郷時に“いちご一会”なる栃木旅行キャンペーンのキャッチ・コピーを見て、何とも複雑な気持ちになったものだ。
行きつけのスーパーみつけた「さぬきひめ」(香川県)、「スカイベリー」(栃木県)、そして「あまおう」(福岡県)、一番おいしいのは?
何はともあれ、大人になってからは栃木県がいちごの一大産地であるという認識はあり、郷土愛ゆえかよく食べる。シーズン出始めは高いので、買うのは1パック500円程度になってからだ。「とちおとめ」や「とちあいか」のような栃木県品種はもちろんだが、他県産にも積極的に手を出す。ひとつひとつの品種名は覚えていないが、美味しさでは博多の「あまおう」が僕的には一番だ。1パック500円で売られることは稀で他品種より高価だが、甘くてまずハズレがない。「とちおとめ」や「とちあいか」は驚くほど美味しいこともあるが、酸味が強すぎてこれはハズレだと思うことも少なからずある。
左から「さぬきひめ」「あまおう」「スカイベリー」。「あまおう」が他2品種と同価格なことは滅多にない。
さて1月下旬、行きつけのスーパーで「さぬきひめ」(香川県)「スカイベリー」(栃木県)、そして「あまおう」(福岡県)までが税抜480円で売られていた(ただし「あまおう」は翌日600円台に)。いちご好きとしては、3品種を購入して食べ比べる絶好のチャンスだ。
いちごは葉側(上半分)と先端側(下半分)で甘さがかなり違うので、相対的に甘くない葉側から食べていくのがセオリーとされる。「さぬきひめ」は葉側と先端側の甘さの違いが顕著だが、先端側はとても甘い。「スカイベリー」は最も歯応えがあり、上品な甘さだ。「あまおう」は葉側の酸味が強めだが、全体に酸味と甘さとのバランスがよく美味しかった。それぞれ収穫時やコンディション等の違いがあるはずで一概にはいえないが、今回は値段が同じだから迷わず「あまおう」がベストだ。
返礼品同封のパンフ。“いちご大国栃木の首都 真岡市”とある。
2月15日、栃木県真岡市からふるさと納税返礼品の「とちあいか」が届いた。6000円の納税額でいちご30粒。納税額の3割が返礼品の市価という原則によれば市価1800円の「とちあいか」となり、1粒60円だ。市価500円なら約8粒。スーパーでよく見る2段重ね12粒前後500円ほどのいちごより高級だ。高級だからか、画像のようにいちごは重ねられていない。重ねると痛みが早くなるのだろう。見た目も葉周辺が白いことがままあるスーパーの「とちあいか」より全体に赤くて艶もいい。
葉側から食すが、ここからして甘い。ましてや先端側をや、だ。果肉は歯応えがあるが、かたいわけではない。なんとも上品でまろやかな甘さが口いっぱいに広がる。我が人生67年で、一番美味しい。銀座の高級フルーツ店、千疋屋のいちごを食べたことはないが、高級ないちごとはかくありなん。
今まで食べてきた「とちあいか」は何だったのか? いや品種の問題ではない。いちごに限らず、フルーツ、野菜、魚、肉、なんであれ品種より価格、より選び抜かれた上等なものは値が張っても美味いのだろう。ワインに例えれば、1500円のチリ産ピノノワールを美味しいと飲んできたが、8000円級のフランス産ピノノワールを知ってしまったイメージだ。