各社が掲載する予想買取価格に意味はあるのか?
房野氏:この仕組みなら、価格が安い端末も高い端末も、みな「1円」にできるんじゃないですか?
石野氏:いや、高い端末を1円にしようとすると残価部分に支払の大半を盛らなきゃいけなくなっちゃう。残価を盛りすぎるのは……
石川氏:残価は割引に関わってくる。割引が4万円を超えないようにしなくてはいけない。だから、ほどほどの端末、1年後にも価値があって中古スマホショップに高く買い取ってもらえそうな端末を「1円」にしている。ただし、iPhoneなら成立するけれど、Androidの中には、下取り価格を高値に維持できるか、怪しい端末があると思う。
石野氏:各社とも1年後、2年後の買い取り価格を予想して、それをWeb上で公開しないといけないんですが、ソフトバンクだけやたらと予想価格が高いんですよね。予想価格を高くすれば、残価が高くても割引じゃないってことになるので。だからソフトバンクは他3社より予想価格が高いんですよ。
法林氏:想定下取り価格を高くすることによって、割引じゃないよって言い訳している。
石川氏:でも、Android端末はそこまで価値を維持しないだろうっていうのもあるし。
法林氏:でもそれは、誰が決めるわけでもない。
石野氏:そうなんですよ。
法林氏:ソフトバンクが決めればいいこと。
石川氏:ソフトバンクが上手いのは独占端末があること。他社と同じ端末だと他社の見積もった価格に比較して「ソフトバンクは高すぎじゃん」となるけれど、キャリア独占で売っている端末でしょ。
石野氏:Pixelは……
石川氏:Pixelは多少高めに設定できますが、Xiaomiやモトローラ端末で残価を高く設定しているのは、自社オリジナルだと価格設定の自由が効くからだと思います。
法林氏:Xiaomiやモトローラの端末は盛りやすい。
石川氏:逆に、AQUOSとかXperiaはやりにくいんじゃないのかなと思った。
石野氏:盛りづらい。ただ、総務省のガイドラインをよく見ると、何を基準にするのか細かくは書かれていないんですよね。一般的な中古買取市場価格などと比較して、みたいなことが書いてあるので、ソフトバンクは何らかの根拠を出して、「これが一般的な買取価格です」と言い張ればいいんじゃないかなと。
法林氏:あくまで予想下取り価格なので、その下取りは高すぎるとは誰も指摘できない。あくまで「我々はこう解釈した」と言えばいい。
石野氏:そうですよね。仮に一般的な中古買取市場価格を超えちゃっていても、始末書的なものを出せばペナルティは免除されるみたいなことが書いてある。予想が外れちゃいましたっていう始末書を出せば良さそう(笑)
石川氏:だって予想なんて当たるわけもないし、キャリアは当てる気もないでしょう。ガイドラインはなんだかすごくザルだし、煩雑。端末のラインアップに応じて全部予想価格を出したり。
石野氏:今は他社もそうなっていますが、ドコモは当初から1か月ごとの予想価格を出している。すごく見づらいエクセルシート(笑)
石川氏:あんなことをキャリアにやらすんじゃないよって。
石野氏:チェックするための人材も無駄だし、作る方の人件費も無駄だし。
石川氏:そんなことにコストをかけるのだったら、その分を端末価格の割引に充ててよって言いたい。
キャリア独占端末のメリット
房野氏:キャリア独占端末だと販売台数は基本的には少なくなりますよね。そのことで、端末の仕入れ値は高くなるんですか、それとも安くなるんですか?
石川氏:そこは調整が利く、というか、ブラックボックスです。メーカーに「いっぱい売るから安くしてよ」って、キャリアが相談することもできますしね。
法林氏:そこで揉める原因ができるわけ(笑) 「たくさん買うって言ったじゃないか」みたいに、言った言わないの話になっちゃうんだよね。
房野氏:仕入れ値をブラックボックスにして、下取り価格の設定を上げておきながらも原価が低ければ、差分で儲けることもできますよね。
石野氏:まあ、端末で儲けようとはしていないと思います。
石川氏:むしろユーザーを獲得するためだと思うし、「1円」端末を作るための立て付けになっている。
房野氏:「1円」端末のユーザーってMNPしやすい人たちでしょうか。
石野氏:それはもちろん、移行しやすい。Xiaomiもモトローラもソフトバンクに感謝の意を述べていたくらいなので。
石川氏:プロモーションしてくれて、全国のショップで売ってくれるので、メーカーからするとキャリアに売りたいっていうのが大前提。
法林氏:メーカーにとって、ソフトバンクは魅力的なキャリアに見えると思いますね。
石野氏:日本での知名度が低いモトローラやXiaomiにとって、キャリアのプロモーションはありがたいはず。モトローラは、我々世代には知名度がありますが、若い世代には知らない人も多い。Xiaomiはブランド名が読めない人も多いんじゃないですか。
石川氏:そんな中で「神ジューデン」といって、まとめてCMしてくれるのはメーカーにとってプラス。KDDIはちょっと端末調達が渋くなっているので買ってくれない状況だし、ドコモは中国メーカーの端末を扱わないスタンスなので、ソフトバンクは魅力的。
房野氏:KDDIの端末調達が渋いのは、メーカーにとって厳しいですね。
石川氏:キツいですよね。メーカーとしては、2年後に納入できるだろうと思って企画して、頑張って設計し部材も調達して準備。さあ、いざ納めようと思ったら、「いや、いらない」って言われるような感じ。びっくりして、「じゃあオンラインでなんとか」とお願いしてオンラインで渋々売ってもらう、みたいな状態。それでは在庫を捌けないから、SIMフリー版を早めに出すか、みたいなことになったりもする。特に日本メーカーは厳しくなっているんじゃないですかね。
房野氏:なぜKDDIの端末調達は渋いんですか?
法林氏:歴史的に営業部門が強いい会社で、発言力が強く、とにかく在庫を増やしたくないというのが背景にあります。
各社の特徴が出たガイドライン改正の対応
石野氏:実質価格はソフトバンクがかなり頑張ったんですが、ドコモは優等生的に値段を上げていたりする。ドコモは結構苦戦するんじゃないかなと。
石川氏:春商戦には、もう、ね、各社ソフトバンクへ追随するんじゃないのかな。我慢できないと思う。
石野氏:そうですね。早速我慢できなくなって、ドコモは、iPhone 13が1月19日から実質2万円程度になっていて、MNPの割引を加味すると実施33円になっている。
石川氏:結局、総務省が何をやっても無駄という感じ。
石野氏:今回の電気通信事業法のガイドライン改正は、各社の性格がすごく出ていて、面白かったですね。ソフトバンクはやっぱりソフトバンクで新しい販売方法を見つけ出してきたし(笑)、ドコモはやっぱり優等生だと思います。KDDIは真面目なドコモに沿いつつもソフトバンクを見て「どうしよう」っていう感じでどっち付かず。結局、Pixel 8の本体価格を値下げして、ソフトバンクに合わせてくるみたいな中途半端な対応をしている。楽天モバイルは楽天モバイルで、Androidは買い替え超トクプログラムの対象から全部外してしまうという、明後日の方向に対応したりしている。4キャリアのカラーが出ていて面白かった。
房野氏:楽天で購入補助プログラム対象はiPhoneだけですか。
石野氏:今はそうですね。48分割で買って半額免除されるのはiPhoneだけです。あれじゃAndroid端末は売れないだろうなと。
石川氏:売る気もなさそうに見える。
石野氏:でも在庫として余っている端末をどうするんだろうって。
法林氏:楽天モバイルは端末の売り方を変えるんじゃないかな。iPhoneは、Appleと契約しない限り、最新機種は売れない。勝手にどこかから仕入れることもできないから、買い替え超トクプログラム対象ににして売る。一方、ほかの端末はほかのMVNOやMVNO時代の楽天モバイルがやっていたように、卸売業者の倉庫に入れておいて必要に応じてそこから出荷する、みたいな形に切り替えるんじゃないかな。自分のところで買い取って売るのは大変なので。
石野氏:楽天モバイルは規模的に大変。ただ、楽天モバイルは今、純増数はすごいじゃないですか。獲得したユーザーがみんな端末を買っているかどうかは別としても、月間20万も純増したので、あれだけ新規契約していると端末需要もありそうだなとは思います。
石川氏:法人にAndroid端末を流しているのかも。
石野氏:そうかも。社員に1台15万円もするiPhone 15を買い与えるような良い会社はあまりないですからね(笑) そういう時にはAndroid端末の出番なのかな。
楽天モバイルは帯域不足の不安も
房野氏:もう少し楽天モバイルについてうかがいます。600万回線突破しましたが、これはどうやって……
石野氏:法人契約の伸びですよ。
石川氏:2023年、三木谷さんに話を聞いた時には法人営業が強いという話をしていた。法人を軸に、そこで使ってもらって、個人ユーザーの契約数も伸ばしていけたらなぁって話をしていました。
楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長最高執行役員 三木谷 浩史氏
房野氏:法人の伸びは、今後の収益改善につながるでしょうか。
石野氏:法人はちゃんと使ってお金を払ってくれるので、そういう意味で言うと良いお客さんです。
石川氏:今、契約者数が600万で、月間20万ペースで増えていったら、彼らが掲げている損益分岐点の1000万へいずれ近づくので良かったねっていう感じですが、ただ一方で、それだけユーザーが増えると、今度はトラフィックが混雑していくので、また設備投資が必要になってくるだろうなと。ユーザーが増えるのはハッピーだけれど、設備投資のコストが増えて、また黒字化が遠のくんじゃないのかなという風に見ていたりもします。
房野氏:月間20万ペースで行ったら2024年内で800万を超え、2年後ぐらいに1000万契約になりますよね。
石川氏:楽天モバイルは1500万まで大丈夫と言っていますが、やっぱり1000万契約くらいでネットワークのトラフィックは厳しくなってくるんじゃないかなと思います。
石野氏:楽天モバイルの法人プランって、うまいことできているというか、段階制じゃないんですよね。3GB 1078円からで、個人向けより若干割高になっているというか、契約してあんまり回線を使わなくても、最低料金は個人向けより高いので、法人での収益は高いだろうなと思いますね。ユーザーが増えても個人よりトラフィックは消費しない。しかも最初からキャップが付いているプランもあるので、テラバイトレベルで使うような超ヘビーユーザーも出てこない。そういう意味で、法人ユーザーを獲得できているのは、楽天モバイルにとっては良い話なのかなという感じですね。
法林氏:企業は基本的に昼間のトラフィックが多い。電話は楽天モバイルの場合、Rakuten Linkを使う。自分の会社で使うであろう人数×料金プランの金額ということになるので、それが負担できる企業なのか、そうじゃないのかっていうことはある。各社、契約するかどうかはそれぞれだけれど、お付き合いで契約する形は、かつてソフトバンクのホワイトプラン全盛の時に「PANTONEケータイを5台買いました」という人がざらにいた。それがその後どうなったかを考えると、どこかで破綻するタイミングが来るかもしれない。
石野氏:数十人の小規模な企業でも相対プランで契約できるようですね。
石川氏:今の楽天だったらするでしょ。
法林氏:ユーザーを獲得したくてしょうがないから料金を割引する。でも、その先に何が待っているか。さっき石川君が言ったように、ネットワークの帯域が足りなくなる話はおそらく出てくるので、そこをどうするかですよ。新たにプラチナバンドをもらったけれど、開設計画も厳しくないですか? という感じですね。
房野氏:比較は難しいと思いますが、かつてのイー・アクセスやウィルコムの時に比べてどうですか?
法林氏:楽天モバイルは容量制限がないので、そこが怖い。楽天モバイルで今月何百GB使いました、十何TB使いましたというSNSの投稿が時々ありますが、上限がないのが一番怖い。イー・アクセスやウィルコムの場合は、限られた帯域をいかにしてみんなで上手にシェアしますかっていう発想の下でプランを組んでいたけれど、楽天モバイルはそれがない。結構危ないといえば危ない。法人は上限がありますが、個人がなんでも全部楽天モバイルでやる感じになっちゃうと……
石川氏:Rakuten最強プランをいつまで維持できるのかっていうのも、ちょっと気になる。
法林氏:ユーザーが増えた時に帯域をどうするか。WiMAXでも同じことがあった。どちらかというとWiMAXのケースに近いのかと思っています。
……続く!
次回は、「CES2024」と「docomo Open House」について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/房野麻子