親事業者が下請事業者に対して安すぎる価格で発注する「買いたたき」は、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)によって禁止されています。
本記事では、違法な買いたたきに当たる発注の具体例や、中小事業者やフリーランスの方が買いたたきを受けた際の対処法などを解説します。
1. 「買いたたき」とは
「買いたたき」とは、下請法が適用される取引において、通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めることをいいます(下請法4条1項5号)。
1-1. 下請法が適用される取引
取引に対して下請法が適用されるかどうかは、原則として、発注者(親事業者)と受注者(下請事業者)の資本金の額または出資の総額(=資本金等)によって決まります。
(1)以下のいずれかに当たる取引の場合
(a)製造委託
(b)修理委託
(c)情報成果物作成委託のうち、プログラムの作成委託
(d)役務提供委託のうち、運送・物品の倉庫保管・情報処理委託
<下請法が適用される取引>
・発注者の資本金等が3億円超、かつ受注者の資本金等が3億円以下
・発注者の資本金等が1,000万円超3億円以下、かつ受注者の資本金等が1,000万円以下
(2)以下のいずれかに当たる取引の場合
(a)プログラムの作成委託以外の情報成果物作成委託
(b)運送・物品の倉庫保管・情報処理委託以外の役務提供委託
<下請法が適用される取引>
・発注者の資本金等が5,000万円超、かつ受注者の資本金等が5,000万円以下
・発注者の資本金等が1,000万円超5,000万円以下、かつ受注者の資本金等が1,000万円以下
1-2. 買いたたきに当たるかどうかの判断基準
下請法で禁止されている買いたたきに当たるかどうかは、下請代金が通常支払われる対価に比べて著しく低い金額であるかどうかによって判断されます。
「通常支払われる対価」とは、同種または類似の給付(=納品またはサービスの提供)について、下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(=通常の対価)です。通常の対価の把握が不可能または困難な場合は、従前の取引における対価が基準となります。
また、下請代金の設定が買いたたきに当たるのは、その設定が不当である場合のみです。安すぎる下請代金を設定したことが不当であるかどうかは、以下の要素などを総合的に考慮して判断されます。
・下請事業者と十分な協議が行ったかどうか
・他の事業者と比べて差別的であるかどうか
・通常の対価との乖離状況
・下請事業者の給付に必要な原材料等の価格動向
など
2. 違法な買いたたきに当たる発注の具体例
たとえば以下のような下請代金の設定は、違法な買いたたきに当たると考えられます。
・大量発注をする場合の見積書を提出させ、見積書記載の金額で1個だけの商品製造を発注した。
・下請事業者から、原材料価格の高騰を下請代金に反映するよう要請を受けたにもかかわらず、十分な協議をせず一方的に価格を据え置いた。
・親事業者の営業目標を達成するため、十分な協議をせず一方的に発注価格を引き下げた。
・納期を大幅に短縮した結果、当初の見積もりよりも適正価格が高くなったにもかかわらず、当初の見積額によって発注した。
など
3. 違法な買いたたきに遭った中小事業者・フリーランスの対処法
中小事業者やフリーランスが、発注先から違法な買いたたきを受けた場合には、公正取引法委員会の下請法相談窓口に相談しましょう。
発注先に対する勧告や事業者名の公表を行い、下請法違反に当たる買いたたきを止めさせてもらえることがあります。
また、公正取引委員会と連携している商工会議所や商工会に相談することも考えられます。
全国約2,200箇所の商工会議所および商工会に「独占禁止法相談ネットワーク」が設置されており、下請法違反に関する相談を受け付けています。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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