TOKYO2040 Side B 第30回『DXで犠牲になるのは今か未来か』
※こちらの原稿は雑誌DIMEで連載中の小説「TOKYO 2040」と連動したコラムになります。是非合わせてご覧ください。
年初の日本を襲った「令和6年能登半島地震」ですが、復興への道筋で防災DXの重要性を感じさせるニュースに触れる事も増えました。
被災地への復興支援について、政府の対応は迅速で、考えうる限りの初動としてベストだったのではないかと考えられます。その反面、被災者にとって様々な局面で役立つはずのデジタル関連の施策が、元々デジタル化がされていなかったり、インフラが破壊されたために、迅速に展開できなかったということが窺えます。
参考:能登半島地震の避難所利用者に「Suica」配布、利用状況やニーズ把握 – ケータイ Watch
参考:能登半島地震の避難所に“Suica”配布 マイナカード活用は断念 河野大臣「リーダー確保できず」
なぜマイナンバーカードは活用しきれなかったのか
まず、マイナンバーカードが活用しきれていなかった点は、今後何らかの整備が望まれますが、マイナンバーカードを普段携帯していない場合でも非常持出袋に入っているとは限りません。被災者がマイナンバーカードを所持していないことを想定して、今回のSuica配付のような次善の策を早期に打ち出せる体制も必要でしょう。
多くの人が所持していると考えられるスマートフォンにマイナンバーカードの認証機能を搭載するというのは現実的です。現在はマイナンバーカードの持つ機能のうち「電子証明書」のみ対応していますが、いずれ提供されるサービスが拡大されることで、被災時にも充分に対応できることとなるでしょう。
先程の河野大臣の説明によればカードリーダーの準備が整わなかったことが挙げられますが、平常時にもマイナンバーカード活用の機会が増えている状況にすることで、避難所をはじめ被災を免れた地域で緊急的にカードリーダーを寄せ集めることができ、また発災後に初めてセットアップするのではなく、これまで使っていたシステムを流用できる可能性も高まります。
役所、学校、集会所、郵便局等、都市部ならコンビニ等も加えて、非常時のデジタルインフラとなることを想定したデジタル行政の広範な進行が急務と考えられます。
復興の過程を「被災者向けサービスやアプリケーションの拡充」に転換する
発災直後は、能登地震のようにまず応急的に全力がかけられますが、復旧や復興の時期に入っていくと、そこから先は、百人いれば百通りの復興が待っています。そこで、マイナンバーカードやスマートフォンによる認証により、固有のIDと基本4情報(氏名、住所、生年月日、連絡先)を確認できるようにし、どのようにデジタルを活用して支援していくかという話になります。
避難所生活を始めとして生活をまるっと元に戻す観点になりがちですが、破壊的な災害の後でそれを目指すのはあまりに長期的な話となるかと思います。長い期間、「私の生活は最終的にどのような形になるのか」といった目処が立たない状況で不足を感じ続けるのは誰にとってもストレスです。
例えば、住宅一つをとっても、全壊してしまった、壊れたが住み慣れた家を離れられない、車中泊で必要な配給や情報の受け取りだけしたい、たまたま観光で滞在していて被災しそもそも地域に住居がない……。このようにグラデーションがあります。それを一括りにして「じゃあみなさん家が無いという事実は一緒なので避難所で」というわけにはいきません。
収容できる場所も、対応できる人員も、物資も費用も、無いからです。ほんとうに、その時になってしまうと、思うようにはそこに「無い」のです。
なので、「被災者向けサービス」をカテゴライズして用意しておき、発災直後から被災者それぞれの状況によって届け分けられるようにする。少なくともそれをデジタルインフラとして準備しておくべきだ、というのが私の考えです。
被災時に、各人の状況をマイナンバーとともに端末で状況を表明する。すなわちこれが「申告・申請」にあたります。先程の住居の状況もそうですが、小さい子ども、要介護の老齢者、持病のある人などが家族にいるというようなことを自治体が把握できるようにするわけです。
また、一次避難所から二次避難所、あるいは仮設住宅への入居、親戚を頼って他地域へ移動するなどの追跡も可能にしておく必要があります。
どこに誰がどのような状況に置かれているのか、そして直近でしなければならないことは何なのか。これがわかると、数多くの「被災者向けサービス」をアラカルト形式で組み合わせて、その時期に必要な支援を必要なだけ受けられるようにするのが理想です。