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コップ1杯の水で川に住む魚の種類が判明!環境DNA分析によって河川の生態系を解明するアプリ実用化の可能性

2024.02.12

2025年までの実用化を目指す「スマート環境DNA調査システム」

日本には 約3万5000本、約14万kmの河川があるが、高度経済成長期には治水工事をはじめとする人為的な自然環境の改変が進められ、川に棲む生物の棲息範囲を制限するなど、生物多様性に大きな影響を与えている。

民間の立場から川の資源や環境保全を担うのが、内水面漁業協同組合(以下、漁協)。漁協は 魚の産卵場所の整備や魚道の設置、稚魚の放流などによる水産資源の繁殖、害獣や外来種の駆除、清掃活動や見回りなど、自然環境の保全管理と共に、釣りや自然体験活動などの機会の提供といった、多面的な活動を行っている。

現在、約800組織の漁協がそれぞれ管轄する川を管理しているが、全国の漁協の47.9%が赤字経営で、1992年をピークに年々解散が増えており、それに伴い川の管理の放置が問題になっている。

「日本の美しい川は、全国に約800ある漁協が魚を放流し環境整備することによって維持されています。しかし、近年、担い手不足と経営悪化により多くの漁業共同組合が解散し、川が放置されています。漁業経営の中で最も問題となっているのが遊漁券未購入問題です。遊漁券とは川を管理している漁協が発行する紙の釣り許可書で、これが運営の大きな資金源となっています。

しかし、『買う場所がわからない』『早朝から買える場所がない』といった理由で多くの釣り人が遊漁券を買わずに無許可で釣りを行っています。

地元の漁協も見回りや監視を行っていますが、大変な作業でコストもかかります。こうした問題を一気に解決するものとして開発したのが、遊漁券をデジタル化し漁協と釣り人を便利にする『フィッシュパス』というアプリケーションサービスです」(株式会社フィッシュパス 代表取締役社長 西村成弘氏)

龍谷大学の環境DNAの技術と、フィッシュパスのプラットフォームを使った水産資源の保護と生物多様性保全の取り組みが「スマート環境DNA調査システム」のプロジェクト。

調査設計から、採水、サンプルの輸送、分析、調査結果のフィードバックまでの一連のプロセスを管理し、だれでも簡単に採水できるキットの開発や、解析結果の知識がなくても直感的に分かりやすく表示するアプリケーション、クラウド上でいつでもどこでもアクセスできるプラットフォームの開発などを推進。これらを統合して「スマート環境DNA調査システム」として、2025 年までの実用化を目指す。

「漁協さんごとに抱えている課題が少しずつ違いますので、課題を聞き取るところから始まり、それに対応する提案や解決策を提示したりできるようなデータが得られるよう調査計画を組み立てます。川で実際に調査をしていただき、我々が分析してフィードバック。その流れをシームレスに行えるアプリケーションシステムを組んでいきます」(山中准教授)

実写版「釣りキチ三平」の舞台になった、秋田県の役内・雄物川漁協管内にて2022年にテスト調査を実施。フィッシュパス社が漁協に聞き取りを行い、管理区域の下流寄りでは堰を超えて海から魚が上がってきているか、特定外来生物のコクチバスの存在の有無、アユの放流地点でのアユの動向などの懸念が寄せられた。

これらを明らかにしていくため調査地点を龍谷大学で決め、サンプリングの水を漁協に採取してもらい分析を進めた。その結果、外来魚のコクチバスは検出されず、アユ、ウグイ、オイカワ、ドジョウなど多くの淡水魚が棲息していることが判明。

上流と下流で魚類の組成の違いがあるか、下流側にいるのに上流側には上がれていない魚類がいないかを調べ、堰が原因で上流に全く上れない魚種はいないというデータが得られた。

アユに関しては産卵期にいそうな場所は判明したが、実際にはアユが出てくるのは春先で、採水は9月から開始したことから、アユの管理については継続的に調査をするのが望ましいという結果になった。

「放流した魚が想定していなかった釣り場外まで移動してしまうと効率が悪いため、放流魚の場所の推測に使えば、放流の仕方のヒントにもなり経営改善につながります。

極めて希少な種も含めて様々な種がいることを漁業者さんに知っていただくきっかけにもなり、新しい資源の探索や、希少種が管理区域内にいるのであれば、それに関する情報が得られます。また、河川内に工事が入る場合に、事前・事後のアセスメントにも比較的簡単に適用できます」(山中准教授)

【AJの読み】「環境DNA」で川の生態系を解明することで、生物多様性保全と水産業振興を目指す

コップ一杯の水で、川の各流域に棲息する魚を明らかにする、龍谷大学の「環境DNA」分析技術を活かした「スマート環境DNA調査システム」は、取得したデータを、流域ごとに異なる魚の分布図に加工して、スマートフォンの地図上に表示させることができ、難しい情報を専門外の人でも一目でわかるように工夫している。現在は開発を進めている段階で、サービスローンチは2025年5月の予定。

専門家が行い時間も手間もかかっていた従来の環境調査と比べ、水を汲むだけという格段に簡単な方法で、棲息している魚種のほとんどを特定できるのが環境DNA分析の最大の強み。

環境 DNA 分析は、神戸大学と龍谷大学のチーム、北米の五大湖近くのチーム、フランスのチームが世界でも先駆け的な研究拠点で、日本は環境DNA分析の研究で存在感を持っている国のトップランクに入っている。

「環境 DNA を活用すれば、環境収容量を最適に保つ適正な放流ができる可能性があります。魚の餌資源の分布も調べることができますし、量的なものをはっきり調べるのは難しいですが、魚がよく集まる点では餌も検出されやすいなど関係性が見えれば、なんらかの示唆は得られるかもしれません。

また、まだ先の話ですが、健康状態を環境DNA分析で測れるようになれば、さらに直接的な指標になるかもしれませんし、放流自体を無くせるかもしれません。

天然遡上魚のモニタリング(どの時期にどのルートで回遊してくるのかなど)をして、それを効果的に河川に導く方向へ活用を考えるなど、より理想的な形でネイチャーボジティブを実現できる可能性があります」(山中准教授)

文/阿部純子

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