フランスの寿司チェーン、そのイメージ戦略
「SUSHI SHOP」の寿司は、何も味や食材の斬新さだけでない。写真からもわかるように、色彩や見た目と言った美しさを重視する。
酢飯というボディはそのままに、野菜や果物、スパイスなど色とりどりの食材を用いることで、寿司にフレンチスタイルの装いが施される。
また、ファーストフード店のイメージそのものを覆すような、独創的かつ高級感溢れる佇まいも、この寿司屋の特徴だ。
企業サイト、店舗、従業員の服装や宅配用のパッケージに至るまで黒を基調に統一感を持たせている。(フランスでは、「SUSHI SHOP」に続けとばかりに、同じような黒っぽい寿司チェーンが結構ある。)
これも寿司の存在感を際立たせる視覚効果だろうか。
さらに、コラボレーションする相手は有名レストランのシェフだけに限らない。世界的な著名人を招き、寿司を起点としたファッショナブルなイメージ戦略を積極的に行う。
例えば2011年にはKENZOこと高田賢三とともに作られた寿司ボックスが販売された。大きな桜の絵をあしらった真っ赤な箱の中には、36巻の寿司が入っている。
日本人デザイナーとして、フランスのファッション業界を支えた彼もまた、「SUSHI SHOP」の革新的な事業を好意的に捉えていたようだ。
続く2013年の、「SUSHI SHOP」ロンドン店のオープン時には、スーパーモデルのケイト・モスとコラボした寿司ボックスも登場。トリュフなどをネタにした寿司が、彼女のサインがプリントされた箱に詰められて話題を集めた。
店を訪れたのは夕方。テイクアウトできる寿司はランチに完売してしまったのか陳列棚には何もない
厨房ではディナー用と思われる寿司の仕込みが始まっていた。
パーティー好きで、おしゃべり好きなフランスの人々が、「SUSHI SHOP」の見た目にも美しい、マキ(巻き寿司をフランスではこう呼ぶ)やにぎりを前に盛り上がることは容易に想像できる。
「SUSHI SHOP」は、元々ある「寿司」や「ファーストフード」という垣根を越えて、ファッション性を兼ね揃えた飲食店としてのブランド化に成功している。
高級ブランド産業が、航空・自動車産業の売上げを凌ぎ、国の経済に重要な役割を果たすフランス。「SUSHI SHOP」は、誰もが手軽に食べられるファーストフードにも、ラグジュアリーの可能性を見出しているとも言える。
フランスからの逆輸入グルメとして、日本でその味を楽しめる日もそう遠くはないかもしれない。
文・写真/盛真理子(海外書き人クラブ/フランス在住ライター)
上智大学文学部哲学科及びパリ第8大学先端芸術学部美術研究科卒業。パリを拠点に現代アートのマネージメント業務を行う傍ら、執筆業にも携わる。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員