■連載/石野純也のガチレビュー
王道のミッドレンジモデルとして、モデルチェンジごとにヒットを飛ばしているシャープのAQUOS sense。その最新作が、2023年10月に発売された「AQUOS sense8」だ。MVNOや直販サイトなどで購入できるオープンマーケット版も11月に投入されたほか、2024年1月にはインドネシアでも発売。海外では、台湾でも販売が行われている。ほどよいスペックながら、カメラ機能やディスプレイなどに優れているのが特徴だ。
ミドルレンジモデルのスマホながら、メインカメラは5030万画素と高画素で、センサーサイズも1/1.55インチと大型。メインカメラの性能だけで言えば、ハイエンドモデルに匹敵する。このカメラは、光学式の手ぶれ補正にも対応しており、暗所でもきれいな写真を撮影することが可能だ。
ミッドレンジモデルで人気の高いAQUOS sense8。日本はもちろん、海外での販売も始まっている
また、ディスプレイはシリーズ初の90Hz駆動となるIGZO有機ELディスプレイ。映像のフレームごとに黒いフレームを差し挟むことで、残像感を抑えている。ハイエンドモデル譲りの機能を多数搭載しながらも、キャリア版の価格は6万円前後。オープンマーケット版も、5万円台で販売されている。コストパフォーマンスの高さを誇るAQUOS sense8だが、実際のところはどうなのか。ドコモ版で、その性能をチェックした。
硬質感あるアルミボディを採用、側面の指紋センサーは電源ボタンと一体に
ミッドレンジモデルの“顔”とも言えるAQUOS senseだが、そのたたずまいもベーシック。6.1インチのディスプレイは色鮮やかで、インカメラの切り欠き(ノッチ)も最小限に抑えられている。ハイエンドモデルに比べると、ディスプレイ周りのベゼル(額縁)がやや太いところは気になるが、デザイン的にはスマホの王道といった印象だ。
ボディにはアルミが用いられている。昨今のハイエンドモデルは、その多くが金属製のフレームで、背面にガラスを使うことが多いが、AQUOS sense8は背面からフレームまでが一体となったアルミのボディを採用している。それもあってか、手に取った時に硬さが伝わってくる。タフネスモデルほどではないが、MIL規格の耐衝撃性能を備えているのも納得できる。
ただし、金属ボディは電波を通さないため、アンテナの配置が難しくなる。AQUOS sense8も、背面にはいわゆるアンテナラインが多い。ガラス素材のスマホの場合、フレーム部分にスリットのように入るだけのアンテナラインが、背面全体を囲むような形で配置されている。アルミの色合いと同系色でまとめられているが、やはり質感の違いは大きい。このラインが少々目立つのはマイナス点。金属ボディのトレードオフと言えるだろう。
金属ボディを採用。ガッシリとした作りで、金属特有の高級感はあるが、アンテナラインがやや目立つ印象
一方で、AQUOS sense7に比べると、側面はすっきりした印象だ。前モデルでは、電源キーと指紋センサーが別々になっていた結果、側面がゴチャゴチャした印象になっていた。見た目だけならまだいいが、センサーに指を当てづらいというユーザービリティ上の欠点もあった。AQUOS sense8ではその課題が解決され、電源キーと指紋センサーが一体化している。
側面には、電源キーと一体になった指紋センサーが搭載されている
指紋センサーを組み込んだ電源キーは右側面の中央部に配置されており、右手で持った時に自然と人差し指が当たる場所にある。手に持った時、ロックを解除しやすいのはメリットと言えるだろう。反応も速く、画面内の指紋センサーと比べた際にはノールックで指を当てやすいのもメリットになる。ボタンが比較的大きく、押しやすい点も評価できる。
ハイエンドモデルに匹敵するカメラ性能、暗所の写りは特に優秀
先に述べたようにメインカメラは5030万画素と高画素で、4つのピクセルを1つにするピクセルビニング技術に対応しているため、取り込める光の量が多い。元々のセンサーサイズも、1/1.55インチと大型だ。暗所では合成処理も行うため、夜景などが非常にきれいに撮れる。HDRもしっかり効いており、ネオンや街灯のような強い光が白飛びしていないのが優秀。ゴーストもなく、非常にきれいな仕上がりと言える。
メインカメラは5030万画素。センサーサイズも1/1.55インチと大型だ
暗い部分のノイズが少なく、白飛びもしていない。HDRが効いており、クッキリとした写真に仕上がっている
レストランなどの比較的暗めの場所でも、ノイズが少なく、色をしっかり映し出している。センサーサイズの大きさや、レンズの明るさが功を奏した格好だ。AQUOSシリーズは、最上位モデルに1インチセンサーを採用しており、それと比べるとセンサーサイズは小さい。一方で、1/1.55インチの方が不必要なボケが生じづらいため、狙い通りの写真が撮りやすい。工夫の必要なく、サクサク写真が撮れるという点では、こちらの方が万人向きだ。
暗めの室内でも、ノイズ感が少なく、色もしっかり再現されている。ミッドレンジモデルのカメラとは思えない仕上がりだ
メインカメラのほかには、800万画素の広角カメラを搭載しており、望遠カメラには非対応。ただし、メインカメラの画素数の高さを生かし、ピクセルビニングを解除したあと切り出しを行い、2倍相当まで劣化の少ないズームができる。ハイエンドモデルのように3倍、5倍といった望遠カメラは備えていないものの、普段使いでちょっと画角を変えたい時にはこれで十分。影が映ってしまいそうな時などに、少し離れて2倍ズームで撮るといったことができる。
ピクセルビニングを解除したあと切り出すことで、2倍ズームを実現。ワンタップで画角を切り替えられるのが便利だ
カメラのユーザーインターフェイスもわかりやすく、縦位置で持った時にも撮りやすい。左右でモードを切り替え、シャッターボタンを押すだけで撮影可能。ISO感度やシャッター速度などを手動で調整できる「マニュアル写真」にも対応している。シャープは老舗カメラメーカーのライカとタッグを組み、上位モデルのAQUOS Rシリーズでカメラにこだわってきた。同機にはライカブランドはつかないが、その絵作りやユーザーインターフェイスなどのノウハウがしっかり反映されている印象を受けた。
サクサク感は十分、独自実装の機能も便利な1台
IGZOを採用した有機ELディスプレイと5000mAhの大容量バッテリーで、電池の持ちもいい。ディスプレイは黒いフレームを挟む最大180Hz駆動だが、映像の書き換えがない時などには1Hzまでリフレッシュレートを落とすことが可能。これによって、バッテリーの消費を最小限に抑えている。比較的ヘビーに使っても丸1日は余裕で電池が持つのがうれしいところ。安心して使い倒せる1台に仕上がっている。
ディスプレイは90Hz駆動。それぞれのフレームの間に黒いフレームを挟むことで、疑似的に180Hzまでフレームレートを上げている。その結果、残像感が少なくなり、滑らかさが上がる
ディスプレイのリフレッシュレートが高いこともあり、スクロールや画面遷移の滑らかさは抜群。パフォーマンスも必要十分で、アプリを切り替えた時などの引っかかりは感じにくい。チップセットには「Snapdragon 6 Gen 1」を採用。グラフィックスに凝った重いアプリをサクサク動かせるほどの高い処理能力はないものの、普段使いで不満を感じるシーンは少ない。カメラの処理も比較的速いのは、チップセットを刷新した恩恵の1つと言えるだろう。
チップセットにはSnapdragon 6 Gen 1を採用。ミドルレンジ向けのものだが、普段使いには十分なパフォーマンスだ。画像はGeekbench 6でのCPUスコア
独自機能として便利なのが、「Payトリガー」。これは、指紋センサーと連動した機能で、ロック解除時に指を当てたままにしておくと、あらかじめ設定したアプリがそのまま起動する。「d払い」や「au PAY」「PayPay」といったコード決済アプリは、画面を開く必要があるため、それを指定しておくと便利。Payトリガーという名称になっているのも、そのためだ。もちろん、決済アプリ以外を指定することも可能。
指紋センサーはPayトリガーという機能に対応しており、指定したアプリを一発で起動できる
おサイフケータイにも対応しており、防水・防じん仕様はIPX5/8およびIP6Xで、お風呂などでも利用可能。日本市場のユースケースも、しっかり考慮されている。ミッドレンジモデルながら、過不足なく機能が搭載されており、パフォーマンスも十分。10万円を超えるハイエンドモデルの機能が必要ない人には、うってつけの1台と言えるだろう。
おサイフケータイにも対応。防水・防じん仕様も備え、日本のユーザーのニーズをしっかり満たしている
ただし、使用していた際に、バイブレーションが大味なのは少々気になった。ハイエンドモデルのバイブ機能は振動の速度や大きさを細かく制御でき、心地いいフィードバックを返すことが多いが、AQUOS sense8のそれは、ブルブルと大きく震えるタイプ。毎日使っていると、フィードバックを受ける回数は膨大になるため、端末の印象も左右しやすい。コストを抑えるためと見られるが、この点は少々残念。次モデルでの改善に期待したい。
【石野’s ジャッジメント】
質感 ★★★★
持ちやすさ ★★★★
ディスプレイ性能 ★★★★
UI ★★★★
撮影性能 ★★★★
音楽性能 ★★★★
連携&ネットワーク ★★★★
生体認証 ★★★★★
決済機能 ★★★★★
バッテリーもち ★★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。