ジェフ・クーンズ(1955-)はアメリカを代表する最重要の現代アーティストです。
つねに議論を巻き起こすその作風から、世界のトップコレクターから愛されながらも、そのビジネスマン的な立ち振る舞いが原因か、それともポップな作風が引き金なのか、アート界の「嫌われ者」と呼ばれているのも事実です。なぜこれほどまでに嫌われているのかというと、それは誰も成し得ていない領域を探り当て、切り拓き続ける「クーンズ」という作家の避けては通れない命題だからではないでしょうか。
そこで今回のアイデアノミカタは「ジェフ・クーンズと資本主義」について考察していきます。
生い立ち
ジェフ・クーンズ(以下クーンズ)は1955年、米国ペンシルバニア州ヨークの中流階級に生まれます。インテリアショップを営む父が手がける週ごとに変化していくショールームを見て育ちます。のちにクーンズはこの経験について、「商品の売買がいかにパワフルで人々の欲望を駆り立てるのかを目の当たりにした」と語っています。
幼少期からアートへの興味を持っていたクーンズは、ダリやビートルズ、絵画教室や父親のお店の商品にとても夢中になっていました。特にダリには強い興味を持ち、17歳の頃にNYのホテルへダリを訪ねに行くほどです。またクーンズの父親もアートに理解があり、当時からクーンズが描いた作品をショールームで数百ドルで展示していました。
1975年、20歳になったクーンズはシカゴ美術館付属美術大学へ進学します。
そこで画家エド・バシュケと出会い、デュシャンやレディメイドという現代アートの哲学に触れていきます。エドとの出会いにより、クーンズはアートがビジネスになることを学んだと後に語っています。
憧れのNYへ移住
1977年、クーンズ22歳のころに念願のNYへと移住します。最初の仕事はMOMA(ニューヨーク近代美術館)でメンバーシップ勧誘の営業職に就きます。ここで天性ともいえるビジネストークを発揮して、売上最高記録(当時で年間3万ドル)を叩き出したという逸話も残っています。また仕事と並行して翌78年には「INFLATABLES」シリーズを発表します。
翌79年にはウォール街の株式ブローカーの職に就きます。これは制作資金を稼ぐことを目的としていたもの、思わぬ副産物として、クーンズはマーケットの知識を得ることとなりました。
◯ INFLATABLES……クーンズ最初期の作品群。デュシャンのレディメイドに影響を受けている作品で、雑貨屋で購入したビニール玩具のウサギと花を並べて、その下と背景に鏡を置いたものでクーンズの才能が垣間見えます。