3. 建替え決議の現要件と、改正に関する議論の状況
区分所有建物(マンションなど)の建替え決議の成立には、区分所有者および議決権(原則として床面積)の各5分の4以上の賛成が必要とされています(区分所有法62条1項)。
現在の建替え決議の要件はかなり厳しいため、老朽化したマンションにおいて建替え決議が行われるケースは決して多くない状況です。
法務省の法制審議会では、建替え決議の要件の緩和について、以下の内容で要綱案の取りまとめを検討しています。
原則:現行法どおり、多数決割合は区分所有者および議決権の各5分の4以上とする
例外:以下のいずれかの事由が認められる場合には、多数決割合を区分所有者および議決権の各4分の3以上とする
・政省令等で定める耐震基準に適合していないこと
・政省令等で定める火災に関する安全性基準に適合していないこと
・外壁や外装材などが剥離し、落下することにより危害を生ずるおそれがあるものとして、政省令等で定める基準に該当すること
・給排水管設備の損傷、腐食などの劣化により、著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして、政省令等で定める基準に該当すること
・政省令等で定めるバリアフリー基準に適合していないこと
※本記事執筆時点では、第12回会議までの議事録と第17回会議までの部会資料が公表されています。
参考:法制審議会-区分所有法制部会|法務省
また、いわゆる「分譲賃貸」を想定して、建替え決議があった場合には、賛成した各区分所有者などが賃借人に対して賃貸借の終了を請求できる規定などの追加が検討されています。
4. 建替え決議の要件緩和により、老朽化マンションの建替えは進むのか?
法制審議会で審議中の要綱案(案)に示されたとおりに建替え決議の要件が緩和された場合、耐震性や防火性などが不十分である古いマンションは、建替え決議が「5分の4(80%)以上」から「4分の3(75%)以上」に緩和されます。
しかし、80%から75%への引き下げは小幅であるため、建替え決議のハードルを抜本的に下げるものとは言えないでしょう。
老朽化のマンションの建替えを円滑に進めるためには、国・自治体・管理会社などが住民(区分所有者)に対し、建替えをしないことのリスクを周知するなどの取り組みが重要になると思われます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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